「東京五輪・陸上男子マラソン」（８日、札幌大通公園発着）

　男子マラソンで今大会での現役引退を表明して臨んだ前日本記録保持者の大迫傑（３０）＝ナイキ＝が２時間１０分４１秒で６位となった。１２年ロンドン五輪６位の中本健太郎以来、日本勢２大会ぶりの入賞を果たした。３１キロ手前で離され、一時は８位に下がったが、粘りの走りで６位でゴールした。

　大迫が現役最後のレースを終えた。全てを出し切って６位入賞。「やりきったっていうところが全て。皆さんにメダルを期待してもらっていて、僕自身もチャンスがあればと思ったけど、今回はそういうチャンスがなかったってだけ。しっかりと自分自身の力は出し切れた」。ゴール前では、観戦自粛ながら集まったファンからの声援に手を上げて応えた。

　中盤までトップ集団について走ったが、３１キロ手前で離され８番手に。それでも粘りの走りで追い上げ、３６キロ付近で２人を抜いた。４０キロ過ぎに右脇腹を押さえるなど、苦しい表情も増えたが前を走る選手を猛追。惜しくも届かなかったが「最後の直線でこれが最後だと思って走っていた」と最後のレースをかみ締めた。

　早大１、２年時に箱根駅伝１区で区間賞を獲得し、全国区のランナーとなった。大学を卒業した１年後に渡米し、アジア勢で初めて米国のエリートランナーチーム、ナイキ・オレゴン・プロジェクトに参加。１９年にチームが解散し、ナイキ所属になったあとも、米国を拠点に活動を続けた。近年はケニアでも合宿を行うなど、世界と戦うために新たな道を開拓してきた。

　最近では、競技とは別に、世界を目指す大学生を募ってチームを作ったり、小中学生を対象にクリニックを開催。大迫の高校時代の恩師で、現在は東海大陸上部の両角速駅伝監督が「今の姿は信じられない」と驚くほど若手の育成に献身的だ。

　そんな後輩たちに向けて「この６番がスタートだと思う」と大迫。２連覇を飾ったキプチョゲは圧倒的な強さだったが、３位とは４１秒差となり「あと一歩だなというところがある」とケニア勢の背中は見えた。

　「後輩たちが必ずやってくれると思うので、見ている選手も『よし、次は自分だ』というふうに思っていると思う。そのことができたことが自分自身が一つ、最後の役割として陸上界に残せたものじゃないかな」。今回ともに走った中村と服部や、日本記録保持者の鈴木健吾（富士通）ら複数の選手の名前を挙げ、期待を寄せる。

　「頑張ったなあ」と笑いながら振り返った現役生活に区切りをつけ、次は「彼らのもう一歩、６番から少しずつ先へというところを手助けできるような活動、僕自身の挑戦をこれからまた真っすぐしていきたい」。後輩たちにバトンを渡し、新たな道へと走り出す。