ゴメスがバレになれる可能性は…?

 楽天日本一、田中無傷の開幕24連勝で最後まで盛り上がった今年の日本シリーズだが、セMVPに輝いたヤクルトの主砲・バレンティンのシーズン通算60本塁打の日本新記録も田中の偉業に優るとも劣らない快挙だった。開幕当初の数試合を故障で欠場しながらの成績だけに余計価値がある。もし全試合、フルイニング出場を果たしていたら何本打っていたか…。ヤクルトファンならずとも興味が沸くし、来季の活躍もまた一野球ファンとして期待せずにはいられない。

 バレンティンに本塁打王のタイトルこそ譲ったものの、首位打者と打点王の2冠を獲得したDeNA・ブランコの破壊力もやはり目を引いた。この2人に加え、シーズン途中まで首位打者を快走した中日・ルナらの大活躍で、改めて「中南米系」のパワーが再認識されたシーズンだったと言える。

 ドミニカやプエルトリコなど“中南米ルート”をいち早く開拓した広島や中日などは優良助っ人の獲得に事欠かないが、この地域にルートがなかった阪神もバレンティンらの凄まじいパワーの脅威にさらされ、ここにきてやっと中南米系の助っ人獲得に乗り出した。「うちもあの地域の外国人選手が獲れないものか…」と漏らしていた坂井信也オーナーの要望に応える形で、ドミニカ出身で前ナショナルズのマウロ・ゴメス内野手(29)と1年契約を結んだ。今季ブルージェイズ傘下の3A・バファローで29本塁打、73打点を挙げた右打ちのパワーヒッター。メジャー実績こそ2本塁打と乏しいが、29歳と年齢的にまだ伸びしろの見込める点はバレンティンと同じ。大砲不在の和田阪神はここに期待をかけた。

 だが、これが思惑通りの活躍をするかどうかは極めて懐疑的にならざるをえない。なぜなら、過去阪神が獲得してきた外国人野手は、他球団からの“お下がり”と2010年入団のマートン以外は全滅状態にあるからだ。2003年から12年までの10年間、獲得した外国人選手は計28人。そのうち野手は以下の9人である。

2004 キンケード

2005 シーツ(前広島)、スペンサー

2008 バルディリス(育成)、フォード

2009 メンチ、ブラゼル(前西武)

2010 マートン

2012 コンラッド

 広島で活躍し、05年岡田政権時のリーグ優勝にも大きく貢献したシーツが現役を引退、駐米の渉外担当として日本行きを推薦したのが10年のマートン。その他は“自前”で獲得した助っ人だが、結果はご存じの通り。ほぼ例外なく日本野球に対応できずに途中退団し、傷心の体で去っていった。今年のコンラッドなどは4月中旬には2軍に落ち、再昇格はあったものの何と本塁打ゼロどことか打点もゼロという史上最低の成績に終わっている。いくら阪神が外国人野手を取るのが下手とはいえ、ここまでくるとジョーク以外の何ものでもない。

 「私がコーチをしていた2009年に入ってきたメンチについて、渉外担当は『ハートの面で多少難があるが…』との前置きながら打撃そのものについては高い評価をしていた。ところが全く日本の野球に合わなかった。翌年入団のマートンは反対で、最初は『比較的走れて守れる野手』という触れ込みだったが、途中から外角の変化球をうまく拾って三遊間に運んだり、反対側に打てるようになった。結局、阪神の編成部門は自らの目で見ないケースが大半だから外れを引いてしまうのではないか」

 こう話すのは真弓政権下でチーフ野手コーチを務めていた野球評論家・岡義朗氏。阪神の場合、現地駐在のシーツやウイリアムスらの情報をもとに獲得可能な外国人選手を調査してきたが、日本の編成部門のトップが長期間にわたってじっくり自分の目で確認し、獲得に至るケースはほぼ皆無に近い。今シーズン中、中村勝広GMが渡米したことがあったが、果たしてどれだけの選手をその目で見たことか。“ダメ外国人”のレッテルを貼られたコンラッドなどは、デモテープを5分見ただけで獲得を即決したと言われているだけに、ナマで見たところで“本物”をつかめた保証は全くないが…。

 この歴史を踏まえて今回のゴメスがどうかを考えた場合、やはり気になるのが、中村GMら編成部門の担当者がどれだけゴメスの調査に時間を割いたかという点。一説によれば、ゴメスの代理人はかなり前から他球団に売り込みをかけていた、とも言われている。もし阪神がろくな調査もせず、ただ中南米系のパワーに惹かれて売り込みに乗ったのなら、過度の期待は望むべくもない。

 前出の岡氏は「ヤクルトのように2、3年かけて成長を促すような環境が阪神にはない。1年目に結果を残せないとコンラッドのようにすぐ見切られる」と指摘した上で、ゴメスをクリーンアップで起用するチーム方針に「いきなり4番は無理。3番や5番にしても負担が重すぎる。最初は6番くらいでスタートさせるのが無難だろう。バレンティンのように外角への変化球を拾えるかどうか。ここに尽きる」と話した。今季は3Aで110試合に出場し、本塁打は29本放ったが、三振も試合数をはるかに超える131個を記録した。和田監督は「パワーヒッターで変化球にもついていける感じ」と評しているが、日本の投手より単純な組み立てをするマイナー投手陣にこれだけの三振を喫している事実に目をつむることはできない。

 三振数は多くても、チームに勝ちをもたらす一発が打てる助っ人なら何の文句もない。まだベールを脱いでいないうちにあれこれ語るのは野暮な話だ。まずは来日後の春季キャンプでじっくりと「本物」かどうか見極めたい。

(デイリースポーツ・中村正直)

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