FA人的補償は補強になりえるか
各球団の来季へ向けた戦力整備が佳境を迎えた。そんな中、注目度が高い“目玉”も残っている。FA権を行使して移籍した選手の、前所属球団による人的補償だ。
FA権を行使した選手の移籍が成立した場合、年俸額によって新所属球団から前所属球団へ人的補償か、金銭補償が必要になる。
08年から適用されているFA制度は、外国人を除く選手の年俸順位をA(上位1~3位)、B(同4~10位)、C(11以下)とランク付けし、ランクごとに補償内容が変わる。
Aランクの選手を獲得した場合は「人的補償&獲得選手の旧年棒の50%にあたる金銭」か「獲得選手の旧年棒の80%にあたる金銭」、Bランクは「人的補償&獲得選手の旧年棒の40%にあたる金銭」か「獲得選手の旧年棒の60%にあたる金銭」を前所属球団へ補償することが決められている(Cランクは補償不要)。
今オフにFA宣言して移籍したのは小笠原(巨人↓中日)、山崎(ソフトバンク↓オリックス)、久保(阪神↓DeNA)、大竹(広島↓巨人)、中田賢(中日↓ソフトバンク)、鶴岡(日本ハム↓ソフトバンク)、片岡(西武↓巨人)、涌井(西武↓ロッテ)の8選手。人的補償が発生する可能性があるのはAランクの大竹、涌井、Bランクの久保、鶴岡、片岡の5選手だ。
選手が“流出”した広島、西武、阪神、日本ハムは、人的補償を要求する方針を示しており、続々と28人のプロテクト外の選手リストが届いている。
では、「補償」は「補強」にはなりえるのか。95年オフに日本ハムから巨人へ移籍した河野の人的補償となった川辺から始まり、昨オフまでに計15人が“指名”された。移籍前後の成績を見ると、人的補償として指名される前に、実績がなかった選手が移籍後に成績を向上させるケースが多い。
一番の成功例は07年オフにヤクルトから西武へ移籍した石井の人的補償となった福地だろう。08、09年に2年連続でセ・リーグ盗塁王を獲得。広島、西武時代の代打、代走要員からレギュラーに定着した。
07年オフに広島から阪神へ移籍した新井の人的補償となった赤松は、阪神でプレーした05~07年の3年間は1軍出場は36試合ながら、広島に移籍初年度の08年は125試合に出場。10年にはゴールデングラブ賞を獲得している。
08年には「プロ野球というものを経験したのはカープに来てから。阪神ではないに等しかった。阪神では『こういうことをしたらダメ』とか攻守で受け身だった。広島ではコーチに『自分らしくやれ』と言ってもらってますし、考えていることが一緒でやりやすい」と話している。プレースタイルと、新天地の環境が合致した場合は最高の「補強」となる可能性があるようだ。
ただ、大きく成績を向上させる選手は少ない。06年オフに巨人からソフトバンクへ移籍した小久保の人的補償となった吉武は、移籍前に2年連続で60試合に登板したが、移籍後はわずか19試合の登板にとどまった。
05年オフに西武から巨人へ移籍した豊田の人的補償となった江藤のように、実績と人柄を買われて指名されたケースはある。現在も現役で今後大きく成績を向上させる選手が出てくる可能性もある。
目に見える数字やタイトルだけで、貢献度を判断することは早計かもしれないが、プロテクト外の選手からチームに合致する選手を見つけ出すのは、至難の業と言えそうだ。(デイリースポーツ・西岡 誠)