巨人連続制覇への思わぬ落とし穴
昭和以降に定められた新季語の中に、「バレンタインデー」「あんパン」などと並んで「球春」がある。
「球春」、そして「キャンプ」はかつて野球担当を務めていた私にとって、何よりも春の訪れを感じさせてくれる言葉だ。2月1日、プロ野球12球団がいっせいにキャンプインした。
今年は巨人が圧倒的に強いと予想されている。広島から大竹、西武から片岡と投打の要となり得る戦力をFAで獲得した。中日を自由契約になった井端も、単なる戦力としてではない部分で巨人に大きなものをもたらしそうだ。
阪神の掛布DCや鳥谷がつい「優勝候補は巨人」と口走ってしまったのも仕方ないほど、戦力的には万全に近いと言えるだろう。
しかし、万全と絶対とは同じではない。
ギャンブルの世界で“絶対”ほど当てにならないものはないように、野球も勝負事、落とし穴は思わぬところに潜んでいる。
かつて、多くの有力チームがキャンプで蹴つまずいた。その多くが野球以外の原因、故障であったり病気だった。病気はほとんどがインフルエンザ。感染力が強いから、チームが集団生活を送るキャンプではあっという間に広がってしまう。最近ではノロウイルスが最も恐ろしい。
もちろん球団も備えてはいるし、発症した選手が練習を休むといってもせいぜい1クールの3、4日で済むことが多い。しかし、1月の自主トレから2月キャンプ、3月のオープン戦を経て開幕へと至るスケジュールはプロだからこそ計算し尽くされており、そのわずか3、4日の遅れを取り戻すために無理してしまうケースもたくさん見てきた。
私がかつて巨人担当だったとき、今思えば申し訳ない目線で練習を見ていた。いや私だけではない。すべてのスポーツ紙の巨人担当が、同じ目つきで見ていた。
今もそうだろうか、練習の最初は全員でグラウンドをジョギングすることから始まる。そのとき、私たち記者は「誰か欠けている選手はいないか」とりわけ「主力選手はみんな揃っているだろうか」とチェックする。
誰か故障を起こしていたり、風邪で休んでいるとここで分かる。キャンプの、特に序盤は実戦形式の練習がなく、ネタが薄いのにもかかわらず、当時のスポーツ紙は常に巨人1面を求められた。主力選手の故障、病気は一番手っ取り早い1面ネタであり、しかも1日の最も早い時間帯で起こるのだから、オイシイ(ごめんなさい)。
もっとひどい話もあって、守備練習の際に送球を顔に受けた選手がうずくまっていたところ、ある社のカメラマンがグラウンドに飛び出していってシャッターを押し、その後、顔をのぞき込んだところ控え選手であったことが分かって「なんだ、おまえか」と暴言を吐いたのだ。
それほど、この時期の主力選手の変調はニュースになった。下手をすればシーズンを占う材料にもなり得るからだ。
キャンプインの1日の様子を報じる翌2日の新聞で、一つのニュースに目が止まった。巨人・岡崎2軍監督がインフルエンザでリタイヤしたという記事だ。選手ではないが、私はこの時期、こんな短い記事が気になって仕方がない。
(デイリースポーツ・岡本清)