センバツは社会人野球出身監督に注目
3月21日に開幕するセンバツの出場32校が決まり、各チームは大舞台に向けての練習に励んでいる。かつて“やまびこ打線”で聖地を沸かせた名門・池田の復活、都立校として初出場する小山台(こやまだい)などが話題となっているが、個人的に注目しているのが、社会人野球出身の監督が率いる高校だ。
昨夏の甲子園で躍進した2校の印象が鮮烈だった。初出場初優勝した前橋育英の荒井直樹監督(49)は、いすゞ自動車時代、都市対抗野球に7年連続出場したキャリアの持ち主。山形県勢初の4強入りを果たした日大山形の荒木準也監督(42)は、プリンスホテルで長年、主軸として活躍した。
両校の試合を見て、まず感じたのは「ソツのない野球をするなぁ」ということ。堅い守備で相手に流れを渡さず、攻撃では畳みかけるというよりは、四球や犠打を絡めて好機をきっちりモノにしていた。
センバツに初出場する白鷗大足利にも、優勝を飾った昨秋関東大会で同じ印象を受けた。4戦連続で2桁安打した打線もさることながら『当たり前のことを当たり前にこなす強さ』に感服した。
白鴎大足利の藤田慎二監督(35)も七十七銀行の出身。都市対抗に4度出場した強打の内野手だった。08年に母校の監督に就任して6年。センバツ出場決定後に取材した際に、社会人野球出身監督が率いる高校が昨年から好成績を残していることについて尋ねると「社会人野球が一番、高校野球に近いかもしれませんね」という答えが返ってきた。
プロや大学は、リーグ戦優勝が最大の目標。一方、社会人は負ければ終わりのトーナメントが基本だ。2大大会の都市対抗と日本選手権は、春夏の甲子園のようなもの。そこにピークを合わせていくのは、確かに高校野球と似ている。
「特に都市対抗は、本大会に出られるのと出られないのとでは、天国と地獄。社名を背負ってやるわけです。予選のピリピリした緊張感は、すごいものがあります。そこで負ければ、30歳を過ぎた選手が、涙をボロボロこぼしたりしますよ」。練習への取り組み、チーム作りや大会へのアプローチ。そして、一戦にかける思い。通じる部分は少なくない。
高校生への指導でも、社会人野球出身監督には共通点が見て取れた。前橋育英・荒井監督は、部の日課としている毎朝15分のゴミ拾いを、甲子園期間中も宿舎の回りで継続した。“気付き”の大切さを強調し「社会人の時にトイレをきれいにするとか、靴をそろえるとかを、何度も言われていた。そういうことが今、生きているのかな」と話していた。
白鷗大足利も、朝は野球の練習をせず、地域のゴミ拾いや部室の掃除といった奉仕・清掃活動の時間にしている。藤田監督は「練習より心の部分を磨くことが大事」と話す。休部が相次ぐなど、90年代以降の社会人チームは厳しい現実に直面してきた。そんな時代を過ごした経験があるからこそ、人間教育に重きを置くことが野球の上達にもつながることを、身をもって知っているのだろう。
攻守ともに細部にこだわり、カバーリングや全力疾走など、全員ができる基本をとにかく重視する。アマチュアでは最高レベルの野球を経験した社会人出身監督は、その徹底ぶりが目をひく。それが『ソツがなく勝負強い』という、共通したカラーにつながるのではと感じた。
センバツでは白鷗大足利の他にも、2年前に4強入りした関東第一・米沢貴光監督(38=元シダックス)、智弁学園・小坂将商監督(36=元松下電器)ら、若手の社会人出身監督が出場する。どんな野球を見せてくれるのか、球児だけでなく指揮官の手腕にも注目したい。
(デイリースポーツ・藤田昌央)