人間風車 故ロビンソンさんの偉大さ

 名レスラー、ビル・ロビンソンさんの死去が大きなニュースになり、あらためて“人間風車”の偉大さを実感した。

 “鉄人”ルー・テーズ、“神様”カール・ゴッチと並び称される実力者は85年の引退後、99年から08年まで東京・高円寺に在住し、後進を指導した。ゴッチも学んだ英国ウィガンの“蛇の穴”ビリー・ライレージムで会得したランカシャー流レスリングの技術は確かだった。生前に指導を受けた現役レスラーも多い。

 “帝王”こと高山善廣もその1人。「普段は酒も飲むし、甘いものも食べるし、(ストイックな)ゴッチさんと違うんだけど、レスリングの指導のときは細かかった。そんなことはどうでもいいっていうくらい。技どころじゃない。マットへの手のつき方から」。手を広げたままマットにつくと、「踏まれて指が折れるだろう」と指をたたむように教えられたという。

 1月に還暦を迎えた全日本・渕正信取締役相談役は、76年以後の王道マット常連時代のロビンソンさんに道場で関節技を習った。「いろんな技を知ってたな。ロビンソンより(8歳)年上のザ・デストロイヤーが“こんな技もあるんだな”ってびっくりしていたのを覚えてる。デストロイヤーも米国でレスリングで鳴らした人なんだけど」と故人の引き出しの豊富さを懐かしんだ。誇り高きイメージがあるが、数多くのスター外国人選手が来日していた当時の全日本で「(周囲と)仲良くやっていたと思う」と印象を振り返った。

 高山は「オレの現役時代の映像を見ろ」などと言われることはなかったというが、「指導には自信を持っていたし、理にかなっていた」とうなずいた。UWFインターナショナル入団後まもなく見た伝説のアントニオ猪木戦(75年)の映像は、ロビンソンさんのコーチを受けた後に見直すと目からうろこが落ちた。「あのとき言ってたことだ」と気付かされるテクニックがちりばめられており、「素晴らしさがよく分かった」という。

 ロビンソンさんから教わった技は宝物だ。「桜庭(和志)が使う、恥ずかし固めといわれるレッグスプレッド(股さき)とか。ダブルアームスープレックスも、どうやって技に入る態勢にもっていくかまで習った。『(最終的には)反れば投げられる』って」。訃報から5日後の3月8日のノア・有明コロシアム大会では、天国へ向けて、獣神サンダー・ライガーに直伝の人間風車を見舞った。

 ロビンソンさんは亡くなるまで各国で関節技などの技術セミナーを開いており、まだまだ自身の持てるものを伝承したい考えは強かったという。「いま思えば、会いに行ったとき、もっと教えてもらえば良かったと思う」。レスラーが持つべきプライドも伝えられる存在だったロビンソンさん。高山の悔やむ声に共感する選手が世界中にいるはずだ。

(デイリースポーツ・大島一郎)

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