済美・安楽が変えた野球王国愛媛の練習

 高校野球・愛媛大会は、創部68年目の小松が松山東との決勝戦を10‐1で制し、春夏通じて初の甲子園出場を決めた。持ち味は6試合で計56得点の攻撃力。各打者とも振りが鋭く、低く強い打球が印象的だった。

 この小松打線、ある男を倒すための練習をみっちりと積んでいた。その男とは、済美の157キロ右腕・安楽智大投手(3年)だ。

 かつて川之江と今治西で計6回の甲子園出場経験がある就任5年目の宇佐美秀文監督は、いつか訪れるだろう対戦を想定してマシンを“安楽仕様”に設定した。150キロ超の直球、135キロのスライダー、120キロのカーブ。この剛腕を攻略しなければ甲子園には行けないと選手たちに口酸っぱく言い聞かせ、徹底的に打ち込ませたという。結局、安楽との対戦はなかったが、その成果が同校初の聖地切符につながったのは間違いないだろう。

 もちろん、打倒・安楽に燃えていたのは小松だけではない。甲子園を本気で目指す愛媛のチームはどこも、157キロ右腕を打ち崩すための策を練っていた。

 今春センバツ出場の今治西は、おそらく県内で最も早い時期から、最も徹底的に安楽対策を講じていたチームだろう。大野康哉監督は、安楽の剛速球に対応するためにチーム全員で打撃フォームを統一した。バットを寝かせて持ち、あらかじめトップの形を作って構える。バックスイングを排除した超コンパクトなスイングだ。全員がフォーム改造する必要があったが、そうまでしなければ安楽には勝てないと考えた末の策だった。

 今大会2回戦で済美と対戦した新居浜東は、140キロ以上に設定したマシンを、なんと8メートルの距離に置いてフリー打撃を行ったという。浜本将成主将(3年)は「体感速度は200キロくらいになります」と言っていた。結果は0‐10のコールド負けだったが、これまで見たことがない球速への恐怖心を消すには、こういう極端な練習方法も必要だったに違いない。

 この夏、実際に打倒・安楽を果たしたのが3回戦で対戦した東温。和田健太郎監督も「マシンをこれ以上出ない球速にして打たせてきた」と話した。それだけではない。試合では各打者がホームベースに覆いかぶさるように身を低くして構え、執拗なまでにバントの仕草を繰り返すなど、安楽に揺さぶりをかけた。考え抜かれた対策がズバリ的中した4‐1の勝利だった。

 入学直後から140キロをマークし、1年秋には150キロを突破した安楽。この怪物の登場に、“野球王国”と呼ばれる愛媛の高校野球界は衝撃を受け、各校の指揮官はどうすれば打ち崩せるのか頭を悩ませ続けた。そして、それが新たな練習方法や打撃フォーム、戦略戦術を生み出したのだ。安楽の剛速球が、愛媛の高校野球の練習風景を変えたと言っても言い過ぎではない。

 今夏を最後に安楽は去るが、この2年半の経験は愛媛野球にとって大きな財産となるはずだ。

(デイリースポーツ・浜村博文)

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