V13具志堅さんの偉大さ 今、改めて
8月2日に東京・足立区総合スポーツセンターで行われたボクシングのWBC女子世界アトム級タイトルマッチで、チャンピオンの小関桃(青木)が挑戦者デニス・キャッスル(英国)を8回29秒TKOで破り連続14度目の防衛に成功した。
ご存知のように、この勝利で元WBA世界ライトフライ級王者である具志堅用高氏の持つ連続13度の日本記録を数字の上では更新したことになる。
もちろん、具志堅氏が王座を保持していた時代とは状況が全く異なる(15回戦制、当日計量など)ことに加え、4団体(WBA、WBC、IBF、WBO)を認可している現状においては、世界王者の価値そのものを問う意見が多いのも事実。これに関しては小関自身が13度目の防衛に成功したあとで、「回数では(具志堅さんに)並んだかもしれないけど、比べられること自体があり得ないと思っている」と務めて記録のことは意識しないようにコメントしていた。
とはいえ、勝ち続けるだけでも大変なのに、怪我や病気などアクシデントが付きものの激しいスポーツ(格闘技)である。2008年8月の世界王座獲得から6年もの間、常にトップレベルのコンディションをキープしてきたのは素晴らしいの一語に尽きる。今回の記録に関して祝福のコメントを寄せた具志堅さんは、「私も約4年半タイトルを守ったけど、小関選手はもう6年も王座を守っているからすごいね」と賛辞を送っている。
ここで改めて思い知らされるのは、具志堅さんは1976年10月にファン・グスマン(ドミニカ共和国)を7回KOで破ってタイトルを獲得してから、81年3月にペドロ・フローレス(メキシコ)に12回TKOで敗れるまで、ほぼ3~4カ月の間隔でコンスタントに試合を行い続けたことだ。79年には現在ではまず考えられない年間4度の防衛を果たしている。当時は暫定王者のような制度はないため、防衛戦が出来ない状況になればタイトルを返上するしかないわけで、激しい試合やハードな練習をこなしながら体調を維持しなければならない。
以前、企画取材でお話をうかがった時に、15回戦制のしんどさや当日計量の厳しさについて貴重なエピソードを聞いた。何よりも具志堅さんが戦っていた時代は6オンスのグローブを使っていた(現在は8オンス)。当然、グローブが小さいということは相手にパンチが効くと同時に、自分の拳も痛めやすい。さらにパンチをブロックしようとしても、両手のガードの隙間をグローブが突き抜けることも多かったという。「いま6オンスのグローブを見ると、こんなちっちゃいので殴り合っていたのかと思うとゾッとするね」としみじみと述懐していた。
だからこそ、「世界チャンピオンで居続けるということは、リングで相手に勝つだけでなく自分を大事にして生活面でもリズムよく過ごすことが必要。それがボクシングに生かされるんですよ」という具志堅さんの言葉に大きくうなずかされた。相手に勝つ前に、まず自分に克つ。徹底した自己管理と決して妥協をしないハードワークで最高のコンディションをつくり上げ、尽きることを知らぬ勝利への渇望と極限まで高められたファイティングスピリットで全国民を熱狂させたのである。
76~80年まで5年連続で年間最優秀選手(MVP)と年間最高試合賞を独占。まさに“具志堅王朝”と呼ぶにふさわしい活躍ぶりだった。V13の金字塔は数字だけでなく、クオリティの高さも評価されるべき。3~8回目の防衛戦で記録した連続6KO防衛は、いまだに破られていない。当時の最軽量クラスとは思えない、KO必至のスリリングな攻防は人々の記憶に強く焼き付けられているはずだ。小関選手の快挙が、具志堅さんの偉大な足跡をクローズアップさせるいい機会になったと思う。
(デイリースポーツ・北島稔大)