巡業での朝稽古改革 お客が沸いた!
大相撲の夏巡業が盛況のうちに終了した。8月8日の茨城県・石岡小美玉を皮切りに東北、北海道8カ所を回る長丁場だったが、連日の大入りでにぎわった。
今巡業の注目は朝稽古の改革。尾車巡業部長(元大関琴風)の指導で、関脇以下の力士は事前に稽古をするしない、また稽古の相手を決めて、裏方の若者頭に申し出る事前申告制が導入された。
改革前は力士が自由に申し合いに加わる形式だったが、一部の力士ばかりが熱心に稽古をし、一応手を上げて形上は参加の意志を見せるものの、ほとんど土俵に上がらない力士が周囲を取り囲む風景がしばしば見られた。
この形式には、お客さんの中から稽古をしない力士が邪魔になって土俵の様子が見えない、やる気がない力士がいると見栄えが悪いとの指摘もあったという。また、けがをしている力士が無理に土俵に上がり、けがを悪化させるという弊害もあった。
尾車部長の指導はこういった問題点を解消し、熱気あふれる稽古をお客さんに見てもらおうというもの。改革後は2人で何番も相撲を取り続ける三番稽古、3、4人でグループをつくる申し合いに変わり、土俵に上がらない(けがなどで上がれない)力士は土俵周辺に来なくてよしということにした。これにより、とりあえず参加し、ただ立っているだけの力士を稽古から排除した。一方で、人気の横綱、大関は必ず稽古に顔を出すよう通達された。
尾車部長は新制度導入の理由についてこう語っている。
「力士がとりあえず土俵回りに立ってはいるが、稽古をしないのはよくない。稽古をする気がない、あるいはどこかけがしていて稽古をできないのなら、土俵回りに来なくていい。稽古をすれば番付が上がるが、しなければ自然と淘汰(とうた)されていくのがこの世界。幕下以下には上に上がりたくて仕方がない若いのがたくさんいる。デレッとした稽古をしていれば落ちていくだけ」
実際に今巡業では秋場所で新関脇が確実なベテラン豪風、ホープ遠藤、将来の横綱候補・照ノ富士、高安、常幸龍、宝富士、さらに大関稀勢の里、琴奨菊らが熱心に土俵に上がり、お客さんを沸かせた。取材する側として見ても、土俵回りに稽古をしない力士がいないため、稽古風景がよく見えたし、撮影する上でもかなりやりやすかった。
最後に尾車部長は新制度初の巡業をこう総括した。
「最初のうちは新しい制度が初めてで、みんな戸惑っていたようだが、巡業が進むにつれて徐々に慣れ、要領を飲み込めたと思う。昔はこのやり方をやっていたが、今の力士は経験がなかったからね。この方法で集中して稽古をすると、力士の汗のかき方が違う。顔見せだけと違って、しっかりと汗をかく、あれが本当の稽古。本場所はどっちかが勝って、どっちかが負けるわけだけど、内容が違ってくるよ」
相撲界は一時の混乱期を脱したとはいえ、まだ人気回復途上。尾車部長の胸の中には「油断したらいつ元に戻ってしまうか分からない」という強い危機感がある。そういう観点からすれば、今回の巡業朝稽古改革は小さな一歩ではあるが、大きな前進。相撲界は確実に変わってきている。
(デイリースポーツ・松本一之)