楽天・松井裕にとって必要なモノとは…
少し前の話になるが、ドラフト1位の松井裕樹投手(桐光学園)が7月2日のオリックス戦でプロ初勝利を挙げた。先発ローテとして開幕を迎え、なかなか勝てずに2軍落ち。6月に再昇格してからは、中継ぎも経験した。初勝利も、中継ぎとして。ヒーローインタビューでは、普段物静かな松井裕が「ありがとうございました!」と声を張り上げたのが印象的だった。
楽天に限らないとは思うが、初勝利や、節目のタイミングで、監督や先輩選手からプレゼントを受け取ることは多い。今回も、星野監督からは推定40万円の高級時計が贈られたという。
チーム勝ち頭の則本昂大も「アイツにとって、必要なモノをあげました」と松井裕にプレゼントを贈った一人だ。今春の久米島キャンプでは同じ部屋で生活。昨年15勝を挙げた先輩から学ぶ部分は、松井裕にとっても多かった。
中継ぎとしての初勝利後、8月13日のソフトバンク戦では、7回2失点で先発としての初勝利もゲット。相手の連勝を9で止め、チームの連敗を6で止める、価値ある勝利だった。その後、改めて則本に松井裕の成長について聞くと、こう返ってきた。
「余裕が出てきたように思います。自信がついたからなのか、一度たたきのめされて見つめ直したのか。でも、マウンドを楽しめるようになってきたと思う。ウチは今、左投手が多い。塩見さんや辛島とも仲良くやっているし、そこから吸収する部分も多いと思います」
確かに、春先は制球難に陥ると、どうにもならなくなってしまった。マウンドで見せる表情には明らかな動揺が見られ、それが結果にもつながった。黄金ルーキーに襲いかかった挫折と試練。だが、13日の試合後に「1日も無駄な日はなかった」と語ったように、2軍での日々も、中継ぎの経験も、遠回りではなかった。
25日現在で、2勝6敗、防御率3・78。前回登板は好投していたが七回に突如崩れ、結局七回途中6失点。まだまだ安定している数字とは言えないが、それでも勝利した2勝はソフトバンク、オリックスと上位チーム。ここぞの集中力と度胸は“持っている”選手なんだろうと思う。
話を戻す。松井裕に聞いたら、則本からのプレゼントはスーツケースだったという。則本にも話を振る。
「そうです。アイツ、必要以上に大きいスーツケースだったんで、もっとコンパクトなヤツがいいだろうと思って」
なるほど。必要なモノとはこれだったのか。と、同時に、遠征先の空港で持ち歩いていた松井裕のスーツケースが印象的だったのを思い出した。続けてこう聞いた。「ひょっとして、今使ってるヤツかな?紫色のやつだよね?」。
則本はうなずいた。「紫というのは、赤と青を足してできる色ですよね。赤は情熱を表して、青は冷静さをイメージさせる。それが混ざった色。マウンドでもそれをいかに同居させるかということで、僕が昔から好きな色なんです。それを選びました」。
“アイツにとって必要なモノ”。ニクい演出だと思った。
(デイリースポーツ・橋本雄一)