新入幕逸ノ城 大器の雰囲気漂う
14日から大相撲秋場所(東京・両国国技館)が始まる。最大の焦点はもちろん新大関の豪栄道(境川部屋)だろう。名古屋場所の終盤に左ヒザを負傷したため夏巡業を全休してしまったが、8月を治療に専念できたこともあり番付発表後の調整は順調。「目標は優勝」と公言しており、06年1月の大関栃東(現玉ノ井親方)以来となる日本出身力士の優勝への期待が大きくふくらむ。
さらに名古屋場所で史上3人目となる30回目の優勝を決めた横綱白鵬(宮城野部屋)は、千代の富士(現九重親方)に並ぶV31を目指す。もし優勝すればついに大鵬の持つ史上最多の優勝32回へリーチがかかることになる。その他にも戦後最年長となる35歳2カ月で新関脇に昇進した豪風(尾車部屋)や、西前頭筆頭に番付を上げて新三役を狙う遠藤(追手風部屋)など話題は満載だが、新入幕のモンゴル出身・逸ノ城(いちのじょう、本名アルタンホヤグ・イチンノロブ、湊部屋)が、どこまで活躍するかも見逃せない。
初場所に幕下15枚目格付け出しで初土俵を踏むと、幕下を2場所、十両を2場所で通過。遠藤の3場所には及ばなかったものの、所要4場所のスピードで躍進してきた。その出世の早さに髪の伸びが追いつかず、まげを結うのは早くても九州場所からになるという。何やら幕末の志士のような雰囲気を感じさせるザンバラ髪の大物は、幕内でどのくらい大暴れできるのだろうか。
1日に行われた番付発表の記者会見では「目標はとりあえず勝ち越しです」と、かなり控えめな設定に詰めかけた大勢の報道陣も少々拍子抜けだったが、師匠の湊親方(元前頭湊富士)は、「希望として2ケタ勝ってほしいが、今の感じなら出来るのではないか」と“上方修正”して大きな期待を寄せた。ただし、師匠は立ち合いでのスピードや横への動きへの対応など課題を挙げることも忘れない。
192センチ、199キロの恵まれた体格、すでに右四つの確固たる形を持っているだけに、すぐに上位に躍進していくのは間違いない。教えたことを吸収する能力が高く、同じ失敗を繰り返さないことを常に意識しているという。名古屋場所では千秋楽に元小結栃ノ心に本割‐決定戦で連敗して惜しくも連続優勝を逃してしまったが、三役経験者と右四つがっぷりに組んで互角に渡り合った取り口は決して悪くなかった。改めてスケールの大きさを感じさせる内容といえる。
さらに同じ相手に2番続けて負けたことが、本人の闘争心に火をつけることになった。「この負けが逸ノ城をさらに大きくさせてくれる」と湊親方が言えば、「次に対戦する時は絶対に負けません」と逸ノ城も負けじ魂をむき出しにする。
立ち合いで胸を出しながら右を差しにいくことが多いだけに、幕内力士の速くて厳しい立ち合いには苦しむ可能性はあるものの、学習能力が高いのでしっかり修正してくるはず。「今は当たった相手を倒すだけ。自信は持ってます」ときっぱり。前頭10枚目だが大勝ちするようなら、終盤戦では上位力士との対戦が組まれることが濃厚。取組を編成する審判部に所属する湊親方も、「遠藤、大砂嵐あたりとは十分に当たるでしょう」とファン待望のカードを提供することを示唆する。
現役時代に東京・東中野の藤島部屋(当時)へ泊まり込みで出稽古に通った湊親方は、第65代横綱貴乃花の稽古ぶりを間近で見ていただけあって、逸ノ城にもそのエッセンスを注入している最中だ。「貴乃花さんのすごい稽古内容は全て真似はできないけど、少しでも近づくようにしたい。もちろん頂点を目指してほしい」(湊親方)と、角界の最高峰へ向けて英才教育が施されている。
順調にいけば来年中には三役に昇進することも十分に考えられる。平成生まれの高安、遠藤、大砂嵐、千代鳳に加えて照ノ富士、逸ノ城が躍進すれば、大相撲界の世代交代は加速的に進むだろう。少なくとも毎場所のように白鵬が優勝争いで独走するというようなことは確実に減るはずだ。無限の潜在能力を秘める21歳の大器、まずは秋場所での規格外の暴れっぷりをじっくりと見せてもらおう。
(デイリースポーツ・北島稔大)