ラグビー 日本代表がW杯へ大きな一歩
8日に秩父宮ラグビー場で行われた国際親善試合「日本代表-マオリ・オールブラックス」。日本代表は後半37分までリードしながら、最後の最後に逆転トライを許してしまい18-20で惜敗。あと一歩のところで大魚を逸したが、1日に神戸で行われた第1戦と合わせ、来年9月に開幕するW杯イングランド大会へ向けて、大きなステップを踏み出したといえるのではないだろうか。
日本代表のエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)は、W杯のグループリーグの初戦で対戦する南アフリカを想定し、マオリとの2試合ではさまざまなことをテストした。
第1戦はあえてキックを使わずに、自陣からパスを回してポゼッションを重視した戦術で臨んだ。ところが攻め込んだときにミスが頻出してしまい、何度もターンオーバーを浴びてはトライを重ねられ21-61と大敗。
奪われた8本のトライのうち、6本がカウンター攻撃からのもの。世界ランク5~6位に相当するといわれるマオリ・オールブラックスに実力差を見せつけられたわけだが、単純なトップスピードなど身体能力の比較に持ち込まれたら、さすがに太刀打ちできないことを改めて痛感させられた。
一方で、スクラムやモールを押し込んでペナルティトライを決めており、攻略の糸口もつかめた。
ボールを失ったときの守備のリアクションや、戦況に応じてパスやキックを選択するアタックを再確認。修正ポイントを踏まえて臨んだ第2戦は、前半31分までに0-15とリードを許しながら、じわじわと反撃に移り後半32分にFB五郎丸のPGでついに18-15と逆転に成功。歴史的勝利が目前まで迫りながら、マオリは残り3分でラインアウトをクイックのロングスローでリスタート。虚を突かれた日本は守備に戻りきれず、痛恨の逆転トライを許してしまった。
それにしても、タックルを受けながら右手一本でラストパスを送り、フランカーのダン・プライヤーのトライをお膳立てしたCTBチャーリー・ナタイ主将の執念と高度なスキルには、ラグビー王国の底力が凝縮していたと思う。
まさにワールドクラスのプレー。試合後の記者会見でエディーHCは「選手たちのパフォーマンスを誇りに思う。特にスクラム、ラインアウトは素晴らしかった。しかし、きょう我々はラグビーに愛されていなかった」と、落胆を隠せない表情でコメントした。
しかし、収穫も間違いなくあった。まずはスクラムやラインアウトなどのセットプレーの安定感が、さらに増したこと。マオリがあまりスクラムを重視しないメンバー構成だったとはいえ、後半7分にゴール前のスクラムを押し込んで奪ったペナルティトライをはじめ完全に圧倒した。
春シーズンにはスクラムの強さに定評のあるイタリア代表とも互角以上に渡り合っており、今や確実に計算できるジャパンの大きな武器になった。
さらに新戦力の発掘もあった。今回はバーバリアンズに選出されたSH田中史朗(パナソニック)については、「休養が必要。W杯へ向けてリフレッシュしてほしい」というエディーHCの意向で欧州ツアーにも不参加。フッカー堀江翔太(パナソニック)、ナンバー8ホラニ龍コリニアシ(パナソニック)、WTB福岡堅樹(筑波大)などレギュラークラスの主力選手が負傷のためメンバーから外れた。
また、代表に帯同しているが、6月のカナダ戦で右肩を痛めたWTB藤田慶和(早大)は、実戦にまだ復帰できていない。
「主力の不在は他の選手にはチャンス」という指揮官のコメントに呼応するかのように、神戸でも秩父宮でも新しい若い力が躍動した。プロップ稲垣啓太(パナソニック)は、昨シーズンのトップリーグの新人王。三上正貴(東芝)の負傷で第1戦に途中出場すると、第2戦はフル出場。前半12分には、オブストラクションで取り消しになったが幻のトライも決めた。
そして、ナンバー8のアマナキ・レレイ・マフィ(NTTコム)を取り上げないわけにはいかないだろう。トンガから関西大学Bリーグの花園大に留学。今春、トップリーグのNTTコミュニケーションズにトライアウトを経て加入、エディーHCが視察に訪れた際に目に留まり代表入りした。
まさに掘り出し物といっていい。途中出場した第1戦では、後半12分に中央を突破していきなりトライも決めた。課題も多いが、タテへの推進力は大きな魅力。トップレベルでの経験が少なく、これからの伸びしろも無限大で、W杯までにどこまで成長するかが楽しみなホープが現れた。
10日に国際ラグビーボード(IRB)から発表された世界ランクは過去最高の9位に上昇した。グループリーグを突破してベスト8入りを公言しているエディー・ジャパンから、ますます目が離せなくなりそうだ。
(デイリースポーツ・北島稔大)