新井広島復帰のカープファンの心境とは
阪神を自由契約になった新井貴浩内野手(37)が古巣の広島に復帰した。07年オフにFA権を行使、阪神に移籍してから7年目の決断だった。本人に理由を聞けば「最後にもう一度、競争したいんです」という強い意思表示が返ってきた。
注目は移籍先だった。広島の松田元オーナーが真っ先に獲得意思を示し、新井が厚意に応える形で古巣復帰が決まったわけだが、果たしてカープファンの心情はどうだろうか。
阪神移籍初年度、最初の広島戦で新井が広島市民球場の打席に向かうと、スタンドから地鳴りのような大ブーイングが起こった。私は記者席で聞いていたが、想像以上だった。
この大音量を耳にして、思った。新井はカープファンから愛されていたんだな、と。若いころは信じられないような凡ミスもしたが、本塁打キングにもなった。広島で生まれ育ち、カープが好きで、カープに育てられた。
FA会見で新井は「カープが好きだから」と言って、広島を出て行った。矛盾しとるじゃないか!と反発を受けた。お前だけは出ていっちゃいけんだろ…。あのブーイングは我が子に家出された親の気持ち、だったと思う。
今秋の阪神キャンプで臨時投手コーチを務める広島OBの大野豊さんは「そりゃ、一度出て行った選手だから、ファンの間で賛否両論あると思うよ」としたうえで、新井の広島復帰を肯定的に捉えている。「あいつは何でも真っすぐ、一生懸命やるヤツだから。オレはああいう選手、好きなんだよ。自由契約になったときは、広島に帰ってくればいいじゃないかと、心の中で思っていたしね」。レジェンド左腕はファン心理にも触れた。「もう一度、競争したいと言って帰ってくるのだから、そういう新井の気持ちを分かってあげて欲しいし、分かってくれると思うよ、カープファンは」と話した。
広島に帰れば、またブーイングを浴びるのでは…。そんな心配も聞こえてくるが、私は「ない」と思う。新井憎しのファンはまだまだいるかもしれない。でも、帰ってこんでええ!という声があったとしても、それがあのときのような大音量になることはないはずだ。
カープはFA流出の多い球団でもある。広島で育った選手が他球団で活躍する。ファンは、このつらい現実を何度も受け止めてきた。そんななか、新井はFA宣言した選手として初めて帰ってきた。自由契約を選び、7年前にブーイングを浴びたファンのもとへ、一大決心で戻ってきた。
松田オーナーもきっと思っている。家出した子が帰ってくるようなものだ-と。私は大野さんの言う通りだと思う。「しょうがない子じゃねえ」と出迎える親の心が、カープファンにはあるような気がしてならない。
(デイリースポーツ・吉田 風)