怪物・逸ノ城の快進撃が止まったワケ
大相撲の逸ノ城(21)=湊部屋=の快進撃が止まった。23日千秋楽の九州場所はかろうじて勝ち越しの8勝7敗。旋風を巻き起こした9月の秋場所は1横綱2大関を破っての13勝2敗。もちろん、九州場所の地位は新関脇で平幕だった秋場所と一概には比較できないが、突き抜けるような強さが消えてしまったのは確か。怪物に一体何があったのか。
その原因として、まず場所前の心身の状態が良くなかったことがあげられる。秋場所の大活躍で注目度が増し、精神面のストレスから9月の中旬に帯状疱疹を発症。約1週間入院したことで、九州入り後の稽古では本来の動きを取り戻せなかった。その副産物として出稽古を封印したことも大きな要因だろう。
体調不良のまま関取と当たれば、けがの危険もある。師匠の湊親方(元幕内・湊富士)と話し合った上でのやむを得ない選択だったが、実戦勘が研ぎ澄まされないまま本場所を迎えてしまったわけだ。
他の力士に取り口を研究されたことも、成長の足取りが鈍くなった原因だ。初日の横綱日馬富士戦は立ち合いで中に飛び込まれ、のど輪で起こされると、頭を押さえて引くクセが出た。横綱はそこを逃さず前まわしを引いて一気の寄り切り。この一番がライバルたちに攻略法を提供。今場所の苦戦の発端となった。
逸ノ城に期待をかける北の湖理事長(元横綱)は、こう分析していた。
「やはり立ち合いが悪い。もっと速く低く、そして前へ出ていかないと。前へ出ていけばまわしも取れる。今場所は前へ出ていかず、手だけでまわしを取ろうとしているから取れない」
さらに最大の武器である体重199キロが、もろ刃の剣であるとも指摘する。
「体重がある人は前へ出ていけば脅威だが、いったん伸び上がって後ろに下がり出すと、自分の重さで後退が止まらなくなってしまう。そうならないためにも、立ち合いから前へ踏み込んでいくことが必要なんです」
理事長の発言のように、確かに逸ノ城の立ち合いにはスピードがなく、九州場所は体調不良もあってか、体勢が高かった。やはり立ち合いは、素早く低く前へが理想。逸ノ城自身も、ほぼ場所の15日間「立ち合いが悪い」「思ったように立てていない」「今日の立ち合いはダメです」と繰り返し反省の言葉を口にしていた。
とはいえ、21歳にして右四つ左上手という自分の形を持っているのは大きな強み。立ち合いにはまだ難があるにしろ、相手をつかまえてしまえば、とてつもない強さを発揮する。
6日目の横綱鶴竜戦は敗れはしたが、右四つがっぷりで横綱に頭をつけさせ2分以上の大相撲を披露した。13日目は怪力の栃ノ心を力相撲で寄り切った。九州場所の結果は3横綱3大関には1勝5敗だったが、自分より下位力士にはしっかり7勝2敗と番付なりの成績を残した。
本紙評論家の友綱親方(元関脇魁輝、相撲協会理事)は「立ち合いは確かに遅いが、自分の形に持ち込めば負けない。もっと稽古を積めば、必ず上を狙える。私は来年は逸ノ城の年になると思っている」と期待を込めた。大関昇進の条件は三役3場所の白星合計が33勝。来年初場所で2ケタ勝てば、大関取りへの起点となる。
(デイリースポーツ・松本一之)