止まらない白鵬の記録ラッシュ
大相撲九州場所で横綱白鵬(29)=宮城野部屋=が、大鵬の歴代最多優勝32回に並んだ。もちろんこの記録は素晴らしいが、2007年7月の横綱昇進以来、一度も休場がなく在位44場所をすべて皆勤しているのもすごい。横綱としての連続出場回数が九州場所で660回まで伸びており、従来の記録だった北の湖の653回を抜いたことは、もっと評価されてもいいのではないかと思う。
というのも、この2人に次ぐのは「土俵の鬼」の異名で呼ばれた初代若乃花(のちの二子山理事長)の246回。大鵬も横綱昇進17場所目で休場に追い込まれて、244回でストップしているからだ。これまでいかに北の湖の数字が突出していたかが分かる。
横綱在位場所でも大きな目標が見えてきている。白鵬は来年の6場所をクリアすれば通算在位が50場所になる。戦前から戦後にかけて12年間(1942~53年)も横綱であり続けた羽黒山がいるが(在位場所数は30)、昭和33年に年6場所制になってから横綱を10年以上(つまり60場所以上)務めたのは北の湖の63場所だけ。
続くのは千代の富士(現九重親方)59場所、大鵬58場所で、50場所以上はこの3人だけ。強くて丈夫で長持ちという意味では、横綱在位50場所以上は超一流の証明といえる記録だろう。
来年3月に30歳になる白鵬は、そろそろ横綱としての“勤続疲労”が心配されてもおかしくない。昨年9月に東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まった時には、「2020年まで現役でいたい。開会式で横綱土俵入りがしたい」とコメントしていた。ただ、さすがに最近になって「もう相撲が強くなることはない」と、発言のトーンはかなり現実的になってきている。
少しずつ肉体面の衰えを感じてきているのは確か。それでも申し合いの番数は減ってきていても、四股やすり足など基礎運動を本場所中でもみっちりやっており、急激に体力面が減退することは考えにくい。
以前は下位力士を相手に強引に勝負をつけようとして土俵際で逆転されることもあったが、ここ数年は取り口に慎重さが増してきており、九州場所6日目に高安に負けるまで連続10場所も金星を与えることはなかった。年齢相応の取り口を身につけて、極端に取りこぼしがなくなったのである。
ケタ違いの安定感を誇るだけに、不測のケガや病気でもない限り、新記録となる33回目の優勝は時間の問題だろう。さらに最多優勝回数をクリアしても、白鵬に関してはこれから数々の大記録がめじろ押しなのである。
◆通算勝利
九州場所で大鵬の872勝を抜いて、現在は880勝で歴代7位。6位の若の里が894勝で先に900勝に到達しそうで、白鵬の900勝は春場所中に達成され、史上7人目になる可能性が高い。年間80勝のペースなら、再来年の16年前半に魁皇(現浅香山親方、1047勝)、千代の富士(1045勝)に次ぐ史上3人目となる通算1000勝の大台に到達するとみられる。
◆幕内勝利
現在、歴代4位の786勝をマーク。初場所14勝なら、魁皇(879勝)、千代の富士(807勝)、北の湖(804勝)に次ぐ史上4人目の800勝に到達する。順調なら春場所で北の湖と千代の富士を抜くのは確実。17年初場所で史上1位になれば、いよいよ前人未到の幕内900勝が見えてくる。
◆横綱勝利
在位44場所すべてで2ケタ以上勝利、驚異的なペースで592勝を積み上げている。横綱600勝以上は、北の湖(670勝)、千代の富士(625勝)、大鵬(622勝)の3人だけ。初場所に600勝に届けば、夏場所までに大鵬と千代の富士はクリアしてしまいそう。79勝すれば北の湖を抜いて史上1位に踊り出る。来年中に更新する可能性は十分にありそうだ。
◆横綱での優勝回数
大鵬、千代の富士がともに29回。白鵬は九州場所の優勝で29回(大関時代に3回優勝)に届いていて、すでに1位タイ。これは間違いなく更新して、横綱として初めて30回優勝を達成することになる。
これだけでも十分すぎるが、さらに連続勝ち越し記録もかかっている。年6場所制以降、幕内での連続勝ち越し記録は、北の湖の50場所がトップ、さらに武蔵丸(現武蔵川親方)の49場所が続く。白鵬は47場所連続勝ち越し中で、名古屋場所まで勝ち越しを続ければ北の湖を抜いて単独首位となる。ただし、武蔵丸は幕下時代を含めると、90年11月から99年11月まで55場所連続勝ち越しという記録を残している。白鵬がこれに並ぶには、再来年の春場所まで勝ち越しを続けなければならない。
こうしてみると、ありとあらゆる記録で歴代トップに立つどころか、優勝回数を筆頭にどこまで数字が伸びていくのか想像がつかない。ひょっとすると、優勝回数も40回に届くかもしれない。ここ1、2年の充実ぶり、波の少なさを考えると決して夢ではないと思う。(デイリースポーツ・北島稔大)