トーホウジャッカルとは一体どんな馬?
自分本位に昨年の競馬界の重大ニュースを挙げれば、トップは間違いなく“トーホウジャッカルの菊花賞制覇”だ。駆けだしのころからお世話になっている谷潔厩舎から、ついにG1馬が誕生(地方交流のG1は勝っていますが)。しかも「最も強い馬が勝つ」と言われる菊花賞をレコード勝ちしたのだから、この先の飛躍が楽しみでならない。
ただ、これだけ入り込んでいる谷厩舎の管理馬にもかかわらず、自分はジャッカルのことをあまり理解できていない。正直言って、ジャッカルの成長力のスピードについて行けてないのだ。有馬記念後、ひと息つける今は関係者にじっくりと取材ができる時でもある。デビューからわずか149日という菊花賞史上最短記録で頂点を極めたトーホウジャッカルとは一体、何者なのか?調教役の末永助手を直撃した。
まず聞きたかったのは第一印象。G1馬は初めからG1馬だったのか?末永助手が当時を振り返る。
「3歳の3月に入厩して、デビューしたのが5月末。とにかく時間がなかったからな。仕方なく、速い追い切りが1本だけで未勝利戦に使ったわけだけど、その1本が(栗東)坂路で4F51秒台。半信半疑とはいえ、切れ味はすごいなと思ったね。たとえ初戦で結果が出なくとも、間違いなく走ってくるという感触はあった」
では、走ると確信したのはいつなのか?答えはこうだ。「デビュー戦を見てだね。経験馬が相手で甘くはなかった(10着)けれど、上がり3Fがメンバー最速だったから。あれで“走る”と確信したよ。芝の番組に使うことができず、仕方がなくダートに使った2戦目(9着)は参考外。3戦目の勝利は、いわば当然の結果だよな」
幼稚な質問でためらいはあったが、ベテランに思い切って聞いてみた。“ジャッカルってどんな馬なんですか?”。その質問にも、末永助手は親切に答えてくれた。「乗り味を表現するのは難しいけど、ガシッとしているんだ。こういう馬は、走りに無駄がない。俺が乗った馬のなかではウイニングチケット(93年ダービー)がそうだった。速い状態で走っていても、その先にもう1段ギアがある。逆に言えば、体がガシッとしていなければ、そのスピードに耐えられんだろうな」
名門・伊藤雄二厩舎に所属していたときには、ウイニングチケットのほかにもマックスビューティやシャダイカグラ、エアダブリンにマチカネタンホイザ…といった名馬の背中にまたがった。「とびっきりの馬に乗せてもらったからな。競馬の世界に入って34年。菊花賞も何度も挑戦していたから、ジャッカルのレベルなら“4角で5番手以内にいれば何とかなる”と思っていたよ。前々日に1番人気になっていたけど、プレッシャーなんて全くなかった」。熟練の技も、ジャッカルの強さのひとつと言えるだろう。
改めて、セールスポイントを聞くと「反応の速さ」と即答。淀の3000メートルを制した菊花賞馬だが、スタミナではなく、第一に“瞬発力”を挙げた。「一番効率のいい走りができる馬。ゴーサインに対しての反応が速いから、スローダウンしてもまたすぐにギアが入る。直線で不利を受けた神戸新聞杯(3着)が、まさにそれ。並の馬なら走るのをやめてしまう状況でも、ジャッカルはすぐに立ち直ってダービー馬(ワンアンドオンリー)に迫った。あの瞬発力がある限り、今後の戦いも楽しみやな」
ジャッカルは現在、石川県の小松トレーニングセンターで放牧中。今春について、谷師は「1月末か、2月の頭に帰厩させたい。多分、始動戦は阪神大賞典(3月22日・阪神)かな」と見通しを語った。
新たなステージへ。未対戦の強豪との戦いを前に、末永助手はジャッカルに注文をつけた。「菊花賞がギリギリの体だったから、たくましくなって帰ってきてほしいな。男馬なんだし、体が減るようでは駄目。太って仕方がないぐらいでちょうどいいよ。完成されるのはまだまだ先。100%になった時を見てみたいな」。感動よりも“驚き”の方が勝った菊花賞は、意外なほど冷静にレースを見てしまった。今年こそ、強豪に牙をむくジャッカルの熱い走りに興奮したい。(デイリースポーツ・松浦孝司)