「2時間で甲子園」提唱する元スカウト
元プロ野球選手による高校生への指導が解禁されて1年-。強豪校ではなく、未だ甲子園出場が無い地方の進学校にも元プロの姿があった。
現役時代に1000試合出場を果たし、85年に阪神が日本一を達成した際に代打の切り札として活躍した永尾泰憲氏(64)。スカウト、コーチを歴任した男が現在、母校・佐賀西でコーチを務める。
佐賀西は佐賀県内でトップの進学校。東大、京大、九大など国公立大に多数の合格者を輩出しており、平日に与えられる部活動の練習時間はわずか2時間。休日は4時間と厳しく制限されている。
試験の成績が悪ければ生徒は原則として補習を定められており、練習には自動的に不参加。グラウンドも他の部活動と共用。生徒も入学試験が必須となるため積極的な部員集めもできない。甲子園常連校とは雲泥の差。「だからまず生徒をグラウンドに立たせることを考えなければならない」と言うが、「2時間の練習でも甲子園を目指せる」と永尾コーチは力を込める。
スカウト時代、さまざまな高校を見て回った。ドラフト候補がいる強豪校から公立校まで、実際の目で練習をチェックした。
「昼から練習をやっているような高校は違うけど、だいたいは放課後の3~4時間。その中でもダラダラやったり、練習が惰性になってしまっていたり。プロでもそうだけど、短時間で集中してやることがいかに大切かというのをこれまで学んできた」。
長時間の練習が必ずしも成長に結びつくとは限らない。逆に短時間でも効果を得られる、生徒を成長させられる工夫を-。スカウト時代の経験に基づいた指導方法を考え、実践している。
基本的にインターバルの時間を設けず、全体を3班に分けて順次メニューを消化していくことで時間のロスを軽減。短時間でも集中して効果が得られるように、広重監督や永尾コーチが細かく指示を徹底する。練習メニューに関しては1週間ごとに大まかなものを作成し、計画的に実行しているという。
昨年2月の資格回復後、臨時コーチとして数回、子供たちの指導に加わった。そして12月、関西から故郷の佐賀へ引っ越し、正式にコーチへ就任。佐賀西は昨秋の佐賀県大会でベスト4まで勝ち進み、センバツ出場選考となる九州大会へ1歩のところまで迫った。
広重監督が「ベスト4に入って練習態度が変わった。選手は自信になったと思う」と語るように、グラウンドでは生徒たちが緊張感を持って前向きに汗を流している。厳しいメニューも楽しそうにこなす練習風景は、はたからでも意欲的に映る。“本気”の空気が流れるグラウンド。永尾コーチが提唱する「2時間で甲子園」の核となる部分が、それだ。
「高校野球の一番の目的は人間形成。目標が甲子園。やっぱり全力でやらないと。なあなあではなく、本気でやらないと人間形成はできない」。
進学校があえて甲子園を目指す意味。そして元プロ野球選手が甲子園出場未経験の高校を指導する意味-。「僕は子供たちが本当に好きなんですよ。その子供たちに一生懸命やらせるのが指導者の役割。中途半端では何も残らない。良かった、頑張ったと何年後かに堂々と言ってもらえるように。僕も現役時代、レギュラー、守備固め、代打、代走、全部やった。生きるために一生懸命やったことが良かった」。
1963年に佐賀高校が分離して以降、佐賀西は一度も甲子園出場がない。兄弟校の佐賀北は第89回選手権大会で全国制覇を果たした。“2時間で甲子園”を実現させるために、64歳の元プロ野球人は毎日、母校のグラウンドに立ち続けている。(デイリースポーツ・重松健三)
※デイリースポーツでは毎週水曜日、高校野球特集面を掲載しています。現在はセンバツの道と題し、練習方法や注目の選手、学校にスポットを当てて紹介しています。
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