ヤクルト移籍の成瀬が取り戻した反骨心

 プロ野球は各地でオープン戦が開催され、開幕まで1カ月を切った。今年はどのチームが覇権を握るか-。その鍵を握るのが新戦力だ。春季キャンプを巡る中で目に留まったのは、やはり“反骨の左腕”の姿だった。

 ロッテからFA宣言し、ヤクルトへと移籍した成瀬善久。チームにも溶け込んだように明るい表情を見せる左腕だが、言葉の端々に決意の一端を感じる。

 「今年は何としても結果を出さないといけない。FA移籍で、チームもファンも期待をしてくれていると思う。それに応える結果を絶対に残さないといけないですから」

 ロッテではエースとして活躍してきた男でも、やはり新天地でのプレッシャーは感じているのか。だが「プレッシャーはあります。ただ、そういう中でやりたいという気持ちもありますから」。その言葉に、8年前の成瀬を思い出していた。

 07年1月。前年に1軍デビューを果たして5勝を挙げ、先発ローテ入りが懸かるプロ4年目を迎えた年だ。浦和の2軍施設で、練習を続ける成瀬。同年代の選手が食事などの誘いの声を掛けるが、それを断りながら1人、汗を流していた。

 「僕はドラフト6巡目の選手。もちろん、ドラフト上位の選手に負けるつもりはないですが、そういう選手の何倍もやらないといけない立場。遊んでいる暇はないですよ」

 当時21歳の左腕は反骨心をむき出しに、そう答えていた。名門・横浜高では3年時にセンバツ準優勝を果たしたが、左肩の故障などの影響でドラフトは下位指名の評価。プロ入り後もケガの回復に時間を費やしてきた。

 そんな状況からはい上がり、この年、16勝1敗の成績を残す。日本ハム・ダルビッシュ有(当時)を抑えて防御率1・81でタイトルも獲得。その後は、ロッテのエースとしての道を歩んでいく。

 ただ「エース」の座に就いてからの日々は、これまでと違う変化を及ぼしていた。

 一昨年の故障から復活した昨季を、「体の状態は悪くなかったんです。でも打たれる。何かが足りなかったのかもしれませんね」と振り返る。「ロッテを出るなんて想像もしていなかった」と話しながら、新天地を求めた理由の一つが、そこにあるのかもしれない。

 プレッシャーが大きいほど、負けじと歯を食いしばる。故障が癒えた体だけではなく、その気持ちが完全復活には必要だったのだ。

 「最低でも13、14勝は勝たないと。何とかチームに貢献したいですから」。その目は、あの頃のギラついた光を放っていた。今年の燕軍団には成瀬がいる。面白い戦いが期待できそうだ。

(デイリースポーツ・中田康博)

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