「五・七・五」で生まれた球児の友情

 今年も熱戦が繰り広げられた選抜高校野球。12日間の戦いを振り返ると、前半は82年ぶり出場で1勝を挙げた松山東(愛媛)が盛り上げ、後半はエース・平沼翔太投手(3年)を中心に頂点に駆け上がった敦賀気比が、その強さで聖地を沸かせた大会だったように思う。

 松山東と敦賀気比。大会の主役を務めたこの2校の間には、3月21日の開会式で“友情”が芽生えていた。

 選手宣誓の大役を務めた敦賀気比の篠原涼主将(3年)が、宣誓文の中に「グランドに チームメイトの笑顔あり 夢を追いかけ 命輝く」という短歌を盛り込んだ。このアイデアについて同主将は「正岡子規の母校でもある松山東さんが出場されるので」と説明。そのコメントを伝え聞いた松山東の選手や学校関係者らは大いに喜び、敦賀気比ナインへの感謝を口にしていた。

 「これも子規がつないだ縁。敦賀気比さんのおかげで短歌や俳句が注目されて、ウチの部員たちも喜んでいます」。そう話したのは松山東の俳句部の顧問・森川大和教諭(32)だ。

 毎年夏に行われる「俳句甲子園」で2度の全国制覇を誇る同校俳句部。先輩・子規の志を受け継ぐ7人の部員は、82年ぶりのセンバツ出場が決まった際に「ここに集へ 正東風(まごち)に校歌 響かせん」という句を野球部に贈っている。

 その句に込められた願いは、そっくりそのまま現実のものとなった。二松学舎大付との1回戦には全国から卒業生ら、7000人を超える大応援団がアルプスに集結。地鳴りのような声援に後押しされたナインはセンバツ初勝利を挙げ、大音量の校歌が聖地に響き渡った。アルプス席で観戦した7人の俳句部員は「桜東風 校歌を刻む ためにあり」と誇らしげに詠み上げた。

 敦賀気比・篠原主将が詠んだ短歌もまた、そのまま現実の風景となった。そこに描写されたように、初優勝を果たした敦賀気比ナインはマウンドに集まり、篠原主将は輝く笑顔でチームメイトと抱き合ったのだ。

 俳句や短歌の世界に革命を起こした明治の偉人。野球もこよなく愛した子規の情熱が、時を越えてこの2校に乗り移っていたのではないか…。ふとそんな妄想が頭をよぎる、春の甲子園だった。

(デイリースポーツ・浜村博文)

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