DJサポーター~J1甲府のおもてなし
サッカーのJ1は3日からリーグ戦を再開する。各クラブのサポーターはまたスタジアム通いが始まるが、J1甲府のスタジアム行きシャトルバスにはユニークな“添乗員”がいて、アウエーサポーターを「おもてなし」している。
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「本日はスタジアム行き臨時バスをご利用いただき、誠にありがとうございます。ようこそ山梨へ!お越しいただきましたG大阪サポーターの皆さんに、歓迎の拍手をいたします!」
中断前の3月22日の甲府-G大阪戦。JR甲府駅前を発車した山梨中銀スタジアムがある小瀬スポーツ公園行きシャトルバスの車内で突然アナウンスが始まった。声の主は甲府のマフラーを巻きユニホーム姿の男性。その着こなしからしてバス会社の人ではない。それにちゃんと往復乗車券も持っている。歴とした甲府サポーターだった。
アナウンスは続く。「先日はG大阪から5人が日本代表に選出されました。大変おめでとうございます!そして甲府からは、誰も選出されていません…。この臨時バスは12本出ていますが、添乗員付きのバスはこの1本だけです。皆さんはラッキーです!」。笑いを交えて歓迎と敬意を示す“添乗員”に、最初は戸惑い気味だったアウェーサポーターも、次第に表情が緩んでいった。
甲府サポーターの須田康裕さんら有志が、シャトルバスに“添乗員”として乗り込んで今年で14年目になる。きっかけはガラガラのバスだった。甲府サポーターすら乗っていない状況に寂しさを覚え「サポーターみんなで乗り込んで行くような取り組みをやろう」と活動をスタートさせた。
最初は人々の反応も薄かったが、04年から「バス小瀬新聞」というフリーペーパーも配布するようになると、徐々に応援してくれる人も増えてきた。アウェーのサポーターにも人気で、特にFC東京戦では600部がすぐになくなると言う。人気の理由は、両チームの情報が均等に掲載されている点。甲府のみならず、アウェーチームの目線に立った情報と、山梨名物の紹介コラムまである。今では「この新聞を待っていた」という声も多くなった。
バスがスタジアムに近づくと、“専属DJ”によるスタメン発表が始まった。「お待たせしました!本日のメンバーです。まずはガンバ大阪GK背番号1・東口順昭!」…甲府のメンバーも発表し終えたDJはこう締めた。「試合も応援もフェアプレー。本日も全力で応援しましょう!」。呉越同舟なのに、終始和やかな雰囲気のバスから降りた女性G大阪サポーターは「車内での選手紹介はうれしいですね。ホスピタリティーを感じます」と笑顔を見せる。
活動メンバーの一人は話す。「試合が始まれば、口はきかない、ケンカみたいになる。でも、サッカーを愛している点は一緒。ユニホームが違っても、試合以外ではお互い好きなサッカーの話をしたい。気さくに声もかけて欲しいし、山梨を楽しんでいってくれたらありがたい」。
須田さんは続ける。「また山梨に行きたいという人が増え、観客が増えたら、きっと甲府も強くなる。この活動を通じて、相手へのリスペクトの良さ、思いやりの精神を広めていきたい。ここからJリーグを動かしたいです!」。笑顔で人々を迎える添乗員サポーターの夢は壮大だ。
(写真と文=デイリースポーツ・吉澤敬太)