「馬鹿よ貴方は」の源流は80年代半ば?

 2014年後半の日本エレキテル連合から、15年前半の8・6秒バズーカーへ-。ブームの頂点に立つお笑いコンビが目まぐるしく移り変わる昨今だが、そのすき間にいて気になる存在が「馬鹿よ貴方は」。“その次”になれるかはともかく、“そのすき間”で唯一無二の個性を発揮している。まさにニッチ(すき間)な立ち位置にいる芸人である。

 「馬鹿よ貴方は」は、ツッコミの新道竜巳(38)とボケの平井“ファラオ”光(31)によるオフィス北野所属のコンビで結成は08年。昨年末のフジテレビ系「THE MANZAI 2014」で決勝進出を果たし、ゆったりしたテンポの掛け合いで注目された。

 鉄板ネタは「要潤」。俳優の要潤を、平井が脈略もなく延々とイジり続ける。「好きな人は要潤。嫌いな人は要潤じゃない人」「好きな国は日本。嫌いな国はアルゼンチン…要潤がいないから」。

 文字だけ書き起こしても面白さが伝わらない。伝統的なしゃべくり漫才の対極にある、脱力系の間合いとボソボソしゃべる口調、無表情でシュールなネタを転がす芸風。彼らのルーツは“横山やすし師匠にダメ出しされるタイプの芸人”につながっていると思う。

 漫才ブーム終えん後の80年代半ば-。祭りの後の空白期、やすし師匠はお笑い芸人の登竜門的番組の司会などで“ご意見番”として君臨しており、あのダウンタウンですらダメ出しされていた時代、一部で実験的な試みに挑んだニッチなコンビが突然変異的に登場していた。東では「お笑いスター誕生!!」で異彩を放った「象さんのポット」であり、西ではダウンタウンがけん引した「2丁目劇場」で不思議な存在感を発揮した女性コンビ「メンバメイコボルスミ11」などを思い出す。

 そんな“やっさんに怒られる系譜”につながるだろう「馬鹿よ貴方は」だが、漫才ブーム前夜、やすし師匠が東京芸人の中で高く評価したビートたけしに今、彼らが評価されているという“お笑い史の逆説”が面白い。

 4月24日、初の単独DVD「馬鹿よ貴方は-第4回単独ライブ」の発売記念ライブが都内で行われた。その会見で新道は事務所の大先輩・たけしから「ゆっくりとしたテンポで時事ネタをやるといい」とアドバイスを直々に受けたことを明かした。平井は「記事になると他の芸人にパクられるので、僕らがやるまで書かないで」と笑いを誘う中で、たけしが彼らを認めていることが伝わってきた。

 会見では要潤が動画メッセージで登場し「3人でネタを作りましょう。そのネタで『THE MANZAI 2015』で優勝して欲しい」とエール。平井は「要さんは売れたくて必死なんですかね?でもトリオは強いかも」と新展開に含みを持たせ、新道は「お笑いコンテストでの優勝」を目標に掲げた。

 その芸風とは対照的な前向きモードが伝わってきたところで、彼らと現場でみじかに接している関係者の証言を次の2テーマに沿って列挙してみよう。

 (1)セールスポイント

 「軽妙なテンポが主流となったお笑い界の中で“独自の間”をつき通し、独特の世界観を作り上げている」

 「ライブ本数の多さ。新道自ら営業し、1日に違う場所を4カ所回る事もよくある」

 「お笑い通の業界人が目を付けている」

 (2)課題

 「無駄な明るさがなく覇気に欠ける。逆を言うと、こびない」

 「新道のプラス思考が周りから見るとヒヤヒヤさせる。例えば、たけしさんへの挨拶時、A4用紙3枚ビッシリに自分の家族構成から何まで書き連ね、そのプロフィルの最後に『映画に出して下さい』と記して渡した」

 そんな試行錯誤を繰り返す彼らだが、果たしてマニア層以外の一般層を振り向かせることができるか…なんて“上から目線”はひとまず置いといて、これから15年下半期に向け、その動向を肩肘張らずに見ていきたい。

 (デイリースポーツ・北村泰介)

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