巨人阿部“ミスタータイガース”の影響

 7月1日の広島戦(東京ドーム)、巨人・阿部慎之助内野手(36)がバックスクリーン左へ、通算350本塁打となる4号ソロ。幼い頃から憧れていた阪神・掛布雅之DC(60)の持つ通算349本塁打の記録を越えた。

 開幕前から意識していた数字だった。「掛布さんには会うたびに、あと何本だって聞かれてるよ。抜かしたら、飯をごちそうしてやるって」。到達までに時間はかかったが、阿部にとって、価値の大きい1本であることは間違いなかった。

 阿部の父・東司さんは、掛布DCと習志野高でクリーンアップを組んだ間柄。阿部は幼少期、東司さんから掛布DCの話を聞き、プロ野球選手への道を歩み始めた。

 「掛布は高校時代、大きなゴミ箱をボールケースの代わりにして毎日800球は打っていた。自宅に帰ってからも、父親と一緒に紙を丸めたボールを打ち、練習していた。慎之助には掛布がどれだけ練習していたのか、人と同じことをやっていてはダメだという話をした」(東司さん)。

 “ミスタータイガース”に憧れた阿部少年。掛布DCを真似て左打ちにし、その姿を実際に見ようと神宮球場にも足を運んだ。そして、偉大な存在に少しでも近づこうと、自宅敷地内につくられたティー打撃場で毎日バットを振り込んだ。

 「覚えてるよ。(ネットに)工事現場の照明をくっつけてさ。ライトをつけて、よく振っていたよね」。阿部も懐かしそうに振り返る。野球チームの仲間や家族にトスをあげてもらい、ポリバケツに入った80球を10セット。高校時代の掛布DCと同じように800球を打ち込み、力強いスイングの礎を築いた。

 東司さんによれば、掛布DCの影響は阿部家の“教育方針”にまで及んでいたという。「俺は慎之助を怒ったことが一度もないんだよ。それも掛布家の影響が大きい。(習志野)高校時代、練習中に掛布の親父さん(泰治さん)が打撃ケージ裏まで来て、『阿部、いいでん、いいでん』と褒めてくれたことがきっかけ。いいでん、ってどこの言葉か分からないけど、子どもは褒められるとうれしいもの。そういう経験から褒めて育てるようになった」。

 プロ入りから15年をかけて到達した偉大な記録。東司さんは「ドームと甲子園じゃ比較にならない。掛布はあの浜風の中で打ったんだから。でも、素直にうれしい気持ちもある。(掛布DCにも)少しは恩返しができたかな」と、特別な感情を口にする。

 前半戦、阿部は打率・241、7本塁打、22打点と不本意な成績だった。今は「もっとやれると、自分を信じている」と、バットを振り込む日々。“掛布超え”は果たしたが、36歳の挑戦はまだ続いていく。(デイリースポーツ 佐藤啓)

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