今年の“大物”はオルフェーヴル
G1で1番人気馬の代打騎乗という大仕事を勝利という形で終え、心からホッとしたような表情を浮かべる南井克巳騎手とは対照的に、レース直後とは思えない涼しげな目つきで引き揚げてくる希代の快速馬-。先月発売されたJRA発行の月刊誌「優駿」の別冊付録は、サイレンススズカの写真集(表紙は98年宝塚記念)だった。
この付録は、JRA60周年特別企画として昨秋から年始にかけて実施された「未来に語り継ぎたい名馬BEST100」の結果を受けてのもの。ファンが有する名馬の記憶を次代のファンに継承することを目的とした投票で、1位にはディープインパクトが輝いた一方、G1タイトルは宝塚記念のひとつだけながらも、ファンはサイレンススズカを5位に押し上げた。もっと実績のある馬はいても、その壮絶なレースぶりが今でも心をつかんで離さないからだろう。
「未来に語り継ぎたい名馬-」の企画は、趣旨としてはJRAの「顕彰馬制度」に似ている。顕彰馬-は、中央競馬の発展に特に貢献のあった馬の功績をたたえ、後世に正しく伝えるために84年にスタート。これまで30頭が選出されている。
昨年は、JRA60周年記念事業の一環として例年1人あたり2頭までの投票だったところを最大4頭に拡大して実施。ほぼ毎年、得票数トップを記録しながら“投票者数の4分の3以上の票を得た馬”という高いハードルを越えられずにいたエルコンドルパサーが、ようやく選出されたのはまだ記憶に新しい。
今年はこの最大4頭の投票枠を維持することが決定。もちろん、どんな馬に投票しても構わないというわけではない。「15年の選定基準」にはこうある。
中央競馬の競走馬登録を受けていた馬で
(1)競走成績が特に優秀、(2)競走成績が優秀で、種牡馬または繁殖牝馬として産駒の競走成績が特に優秀、(3)その他、中央競馬の発展に特に貢献があったと認められる馬
これら(1)~(3)のいずれかに該当し、なおかつ94年4月1日~14年3月31日に中央競馬の登録が抹消された馬が対象となる。
今年から選定対象となった大物は、オルフェーヴルとロードカナロアだ。これまで牡馬クラシックの三冠馬は全て顕彰馬に選出されており、日本競馬界の夢である凱旋門賞・仏G1制覇に最も接近したオルフェーヴルは当確だろう。
一方のロードカナロアは、オルフェーヴルを押さえて年度代表馬にも選出された13年の成績はほぼ完璧。短距離馬というカテゴリーで顕彰馬に選出されたケースは過去にタイキシャトルしかいないが、投票枠の拡大を追い風にしたい。
話をサイレンススズカに戻すと、近3年の顕彰馬の投票では、12年6票、13年5票、14年8票(いずれも得票数は全体の4%以下)と表彰には遠く及ばない。今年の投票は先日締め切られ、発表は9月ごろの予定だが、常識的に考えて厳しいだろう。この結果におかしいとか、文句を言うつもりは全くない。ただ、前記の基準(3)を満たしている(と思う)この馬などは「優駿」でのファンの支持の高さからしても、本来“選ばれてもおかしくない”馬なのは確かだ。
例えば、選定基準(2)と(3)を満たすステイゴールドも同様のことが言える。種牡馬としてオルフェーヴルやゴールドシップなど、自身の競走成績を上回る産駒を次々と送り出しているのは本当に素晴らしい。現在進行形であるグランプリ(有馬記念&宝塚記念)での産駒9勝は不滅の記録になるかもしれない、ファンから非常に愛された名馬は残念ながら今年2月5日、大動脈破裂のため21歳で急死。なおさら、その功績をたたえたい気がする。
ほかにも、この馬もあの馬も-。登録抹消日から20年が過ぎてしまって、選考の対象外になりかねない名馬はこれから何頭も出てくるに違いない。名馬の記憶を次代のファンに正しく伝えるために、投票枠の拡大にとどまらない、さらなる選定基準の見直しが期待される。
(デイリースポーツ・野田口 晃)