巨人が送った“謎の伝令”の舞台裏
珍しい光景だった。10日の阪神-巨人(甲子園)。巨人が1点リードの九回裏、2死一、三塁。打者・鳥谷を迎えて一打逆転サヨナラ負けのピンチで、相手選手が治療中のわずかな時間を使い、巨人ベンチが動いた。首脳陣の指示を受けた控えの吉川が、外野手のもとへ“伝令役”として走ったのだ。
後日、この時の裏話を原監督が明かした。
「伝達に行け、と言ったのは俺じゃないんだよ。あの時、大西(外野守備走塁コーチ)が『(外野手は)後ろに下がります』と言うから、『こういうポジショニングをとってくれ』と言った。それは今シーズン初めての指示だった。大西は、うまく(選手に)伝えられないと思ったんじゃないかな。だから、あえて大西が俺の意思を(吉川に)伝達させた。大西は(選手に)伝える役目があるから」。実は、原監督は吉川が“伝令”したことも気づかなかったという。
このケース、逆転サヨナラ負けを防ぐために、外野手は長打警戒で深めの守備位置を取るのがセオリー。だが、原監督の指示は定位置より前だった。「敵地だし、同点にされたら、一気に流れが向こうにいく。だから、打ち取った打球は取ってほしかった。ポテンは嫌だった。カーンと後ろを抜かれたら、それは仕方ない」。
結果的に鳥谷を二ゴロに仕留め、1点差を逃げ切り。強気の前進守備を敷いた外野には、打球が飛ばなかった。試合後、大西コーチは「選手を迷わせたくなかったからな」と、伝令の意図を説明。熱血コーチは興奮から感情が高ぶり、その瞳は潤んでいた。
敵地の大歓声によって指示がかき消されかねない状況で、大西外野守備走塁コーチが瞬時に見せた“ファインプレー”。機転の利いた行動に、原監督は「そういうコーチを、いいコーチと言うんだよ」と、笑った。
さらに、指揮官は「(プロ野球は)2メートル、3メートルの世界。外野のポジショニングを見ていると勉強になると思う。深いんだよな、野球ってのは」と付け加えた。大混戦の優勝争い。1試合の結果が重みを増していく中で、ワンプレー、ワンシーンに注目が集まっている。(デイリースポーツ・佐藤啓)