【野球】国体ならではの“おもてなし”

 異様な雰囲気だった。高校野球ファンの間でも名高い智弁和歌山のブラスバンド。紀三井寺球場で行われた和歌山国体の2回戦、智弁和歌山-花咲徳栄戦で一塁側、三塁側から交互に甲子園の魔曲・ジョックロックが鳴り響いた。そこには国体ならではの“おもてなし”があった。

 組み合わせが決まった直後、智弁和歌山から花咲徳栄側に友情応援の申し出があった。「もともと全校応援の予定だったんですが、片方だけで盛り上がっても仕方ない。遠方から来られると言うことで、それなら相手側のチームも応援したらということになった」と智弁和歌山関係者。花咲徳栄側も快諾し、智弁和歌山の全校生徒約1500人を2つに分け、1000人を智弁和歌山の三塁側、500人を花咲徳栄の一塁側スタンドに配置した。

 智弁和歌山の生徒が、花咲徳栄のために声を枯らす不思議な光景。ブラスバンドの部長を務める和泉萌さん(2年)は「不思議な感じですけど、こうやって音が聞こえてるんだなというのが分かって良かった」と言う。この日は花咲徳栄側のスタンドでスーザフォンを奏でたが「本当は智弁の応援をしたかったんですけど、花咲徳栄を応援していると感情が移ってしまって先制された時は悔しかったです」と言う。

 グラウンド上でも受け取り方はさまざまだった。智弁和歌山の高嶋仁監督は「不思議な感じでしたね。いつもは背中側から音が聞こえてくるけど、きょうは目の前(相手側のスタンド)から聞こえてくるから」と苦笑い。逆に花咲徳栄・岩井隆監督は「やる前は完全アウェーだと思っていたので、非常に心強かった。もっとワンサイドになるかと思っていたけど、選手たちが声援を受けたことで勇気付けられたと思います」と感想を口にする。

 以前から両校に交流があったわけではなく、甲子園での対戦は4年前の夏に一度だけ。その時は11-1で智弁和歌山が完勝した。岩井監督は「本当に感謝していますし、友情応援をいただいたことで恥じないプレーをしようと選手たちには言いました。こうやって和歌山と埼玉の交流ができることは国体のいいところ。心温まる応援でした」と感謝の思いは尽きない。

 「もし今後、埼玉に来られることがあればウチもやります。全校生徒が1800人いますので、1000と800に分けてですね」と笑みを浮かべた花咲徳栄・岩井監督。国体だからこそ実現した両校の交流。甲子園常連校の粋な“おもてなし”が、新たな絆を生んだ。(重松健三)

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