【野球】これぞ日本版マネーボール!?

 もしかすると日本版「マネーボール」と呼ばれるかもしれない。京都府在住の野球研究家・小西寛治さん(81)が、「攻撃率」なる野球の打撃に関する計算式を考案。投手の「防御率」に相当するという数字で、打者に対する新たな評価基準として採用されれば、球界に大改革をもたらすかもしれない。

 この計算式で今年の日本シリーズに出場したソフトバンク、ヤクルトの打者を計算してみると…。1位は、5試合で計8打点と活躍してMVPに輝いたソフトバンク・李大浩内野手(攻撃率18・56)。2位が同・明石健志内野手(同8・59)、3位が同・今宮健太内野手(同7・27)となる。ヤクルトのトップは山田哲人内野手だが、攻撃率7・20は全体では4位となる。

 「野球は得点争い、という原点に戻って考えると、打撃部門にも防御率のように総合的に勝利への貢献度を端的に表す数字が必要ではないかと模索し続けてきた」と小西さん。打撃成績を示す数字としては打率、本塁打、打点などがあるが、いかに勝利につながる得点に貢献したかを示す数字はない。それを数字で示すことができれば、真の打撃王が見えてくるのではないかと考えたという。

 この数字がはじき出せれば、敬遠が多いがために本塁打王、打点王などのタイトルを2番手の実力の打者に奪われた強打者に、正当な評価を与えることもできるというわけだ。例えば2001年に73本塁打を放ったバリー・ボンズ外野手(ジャイアンツ)は翌年、46本塁打にとどまったものの、攻撃率は上昇している。「野球の常識を変えるには、まず大リーグが変わらないと」とキャロライン・ケネディ駐日大使宛てにも、攻撃率に関する英語論文を郵送。本気で改革を訴えた。

 小西さんはまず、攻撃率を投手の防御率に相当するものとして仮定。防御率が自責点と何個のアウトを取ったかの関係であることに着目した。打者の場合、投手の自責点に相当する数字を「攻撃点」として、当該選手が挙げた打点とホームへ生還した回数(得点)を加算し、2で割ることではじき出した。敬遠が多い打者は得点も多くなる。この計算式を入れることで、勝負を避けられて打点が伸び悩む打者を正当に評価することができる。

 この「攻撃点」に1試合の総アウト数27を掛け、それを当該の打者が出場した試合で喫した総アウト数で割る。総アウト数には凡退のほか、けん制死、走塁死、盗塁死なども含み、併殺打を打った際には当該打者の凡退アウト数1に走者のアウト数1も加える。この計算式(攻撃点×27÷総アウト数)が、防御率の計算式(自責点×9÷投球回数)に相当するものであることを発見した。防御率は数字が小さい投手ほど優秀であるのに対し、攻撃率は数字が大きい打者ほど優秀ということになる。

 チームの得点、打点と相手投手陣の自責点が同じ場合、攻撃率と防御率は同じ数字になる。このことからも2つの率が対になっていることが分かる。例えば今年の日本シリーズ第1戦、ソフトバンクのチーム得点、打点、ヤクルト投手陣の自責点はすべて4。これをもとに計算すると、チームの攻撃率も防御率も4・50となる。この試合でヤクルトのチーム得点、打点は2だが、ソフトバンク投手陣の自責点は0。これを計算するとヤクルトの攻撃率は2・00、ソフトバンクの防御率は0・00となる。ヤクルトはとにかく得点を挙げたということで、打者の評価ポイントが上がるわけだ。

 大リーグでは「セイバーメトリクス」という統計学的見地からの評価方式が採用されている。米大リーグ・アスレチックスのビリー・ビーンGM(現上級副社長)が、セイバーメトリクスを駆使してチーム改革を進めたのは90年代後半に入ってから。アスレチックスの成功例は「マネー・ボール」という本で紹介され、その後に映画化されたことで日本でも広く知られるようになった。小西さんが攻撃率の計算式にたどり着いたのは1983年。「セイバーメトリクスのことは後から知った」という。

 セイバーメトリクスのいくつかの計算式の中に「RC27」という攻撃率に似たものがある。その打者1人だけで打線を組んだ場合、1試合で何点を挙げられるかを示す計算式だ。安打数、犠打数、盗塁死などを組み合わせた非常に複雑な計算式なのだが、小西さんは「実際の試合からの得点、打点が考慮されていない」と指摘する。

 セイバーメトリクスには計算式が何種類もあり、それらを組み合わせることによって足りない要素を補い合い、総合的に見て、その打者の価値を判断する。しかし「攻撃率なら一つの計算式でセイバーメトリクスに匹敵する打者の評価を出せる」と小西さんは自信を見せる。

 ただし、攻撃率を計算する上では一つ課題が残されている。けん制死、走塁死、失策による出塁、野選などが一般的な公式記録としては公開されていない点だ。冒頭の日本シリーズの攻撃率は、1試合ごとにいわば手計算ではじき出したもの。小西さんは「より正当に打者を評価するためにも、けん制死、走塁死なども公式記録にぜひ加えてもらいたい」と強く訴えている。

 1970年代にスポーツライターのビル・ジェームズ氏によって提唱されたセイバーメトリクス。約30年をかけて日本でも知られるようになった。小西さんが攻撃率の計算式にたどり着いてから約30年。日本版「マネーボール」の実現なるか…。

(デイリースポーツ・岩田卓士)

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