【野球】横浜前監督・渡辺氏の指導とは

球児にアドバイスする渡辺元智前横浜高校監督(中央)と山下智茂塾長(右)県立伊丹高校(撮影・山口登)
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 高校野球の若手指導者研修会「高校野球・甲子園塾」の今年1回目が11月20日から3日間、行われた。初日は座学。2、3日目の実技講習は、兵庫県伊丹市の県伊丹高グラウンドで行われ、塾長の星稜総監督・山下智茂氏(70)と今回の特別講師、横浜前監督・渡辺元智氏(71)、拓大紅陵前監督・小枝守氏(64)が県伊丹ナインを指導した。

 同塾は、教員歴10年未満の若手指導者を対象に日本高野連が毎年実施している。実技講習では講師がモデル校の選手を指導し、受講者はそれを間近で見て学ぶ。

 今夏に勇退したばかりの渡辺氏は、同塾で最多となる3度目の講師を務めた。山下塾長は「受講生から渡辺監督への要望が多い」と言い、この日も全国から集まった27人の指導者が、ビデオを回したりメモを取ったりと、文字通り血眼で学んでいた。

 渡辺氏の指導は基本的、かつ具体的だ。飛びやすい金属バットでも、あえてマークの向きを固定することでフォームの狂いを認識させる。マウンドの左右にネットを置いて、投手の意識をより本塁へ向けさせるなど、誰にでもわかりやすいものだった。

 技術面だけではない。その教育観を思わせる話も多々あった。「野球は失敗のスポーツ」と言う。打者は打っても3割で7割は失敗だとよく言われるが、名将は「失敗のスポーツ」の意を「失敗の後に何かできるか」と力説した。失敗後の対応で試合の流れは変わる。「そのために正しい基本を習慣づけておくことが大切だ」。ミスは起こるものだと考えれば、過剰に恐れることはない。人生にも通じる教えだった。

 プロアマの関係が回復したことで、甲子園塾は技術指導に長(た)けた元プロの指導者を呼ぶべきだという声もある。ただ、甲子園塾に参加する受講者の多くは、これから強豪校を目指そうという“普通の”高校から来ている。高いレベルの技術指導はもちろん大切だが、受講者がその技術だけを学んで帰っても、弱小校の選手が完全に習得することは難しいだろう。

 一方、この日の講師陣は、モデル校のレベルに合わせた指導をしているように見えた。このレベルでの教え方、考え方の指針を示しているようだった。

 渡辺氏は受講者たちに「最終的には先生方の創意工夫です。いろいろ勉強してください」と進言した。そして「うまくしてやりたいと、まずみなさんが貪欲になってください」と熱弁を振るった。

 アマがプロの指導を受けられるメリットは、もちろん有効活用すべきだ。しかし、甲子園塾では夜も受講者から講師陣への質問が絶えず、互いに寝る時間がなくなるほどだという。若き将たちの熱は、現場を生き抜いたベテラン指導者のキャリアの重みを感じているからに他ならない。(デイリースポーツ・船曳陽子)

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