【スポーツ】調整に苦しむ世界水泳王者

 8月のリオデジャネイロ五輪を前に、すでに出場を決めている競泳の世界王者が苦しんでいる。代表選考会となる4月の日本選手権(辰巳)が迫る中で、なかなか調子が上がってこない状況が続く。

 昨夏の世界選手権で金メダルを獲得した日本選手は3人。男子400メートル個人メドレーの瀬戸大也(21)=JSS毛呂山、女子200メートルバタフライの星奈津美(25)=ミズノ、女子200メートル平泳ぎの渡部香生子(19)=JSS立石。彼らはそろって、いち早くリオ五輪代表権を得たことによる調整の難しさを露呈している。

 日本水連の競泳委員長で日本代表の平井伯昌ヘッドコーチ(52)は、彼らの状況について次のように例えた。「日本人だったら『はい、有給休暇6カ月』って言われたら何をしていいかわからないでしょ。もう一回金メダルをと思っていても、時間があるからそんなに慌てなくても大丈夫ってなってしまっている」。

 瀬戸は昨年9月の両かかとの手術明けの影響もあるが、2月のコナミオープンでは無冠。「他の選手が選考会に向けて必死に練習しているのに、自分は余裕を持ってしまっている」と話し、「心を入れ替えて練習していきたい」と自らに喝を入れた。星も「内定をもらって、漠然と時間をいただいたと思い込んでいた」と明かす。

 中でも大スランプに陥っていたのが渡部。昨年10月頃から練習に実が入らなかったといい、「プレッシャーもあって集中できなくなった。以前のように水泳が楽しいと思えなくなっていた」と告白。指導する竹村コーチも「ここまでの不調は初めて。まったく練習できなかった日もあった」と明かす。

 長いトンネルをやっと抜け出すきっかけになったのが1月末に行われた東京都選手権。五輪代表に決まっている200メートル平泳ぎで9位と惨敗した。「散々な結果で目が覚めた」。2月のコナミオープンの同種目では5秒近くタイムを縮め、「やっと楽しいと思えたし、力を出せて安心した」と復調の気配を見せた。

 平井コーチは「彼らは勝つすべを知っているので待ちたい」と静観しつつも、「時間があるから遊んでいるわけではないけど、五輪で金メダルを取るために逆算して時間を使わないと『内定』の意味がない。現に星も漠然と時間を使っていたので説教した」。

 世界選手権金メダリストが翌年の五輪代表に内定するという規定が適用されたのは今回が初。それだけに、五輪代表権を持った上で1年間モチベーションを保つ難しさが初めて顕在化した。

 「内定していても4月(日本選手権)に一度調子を上げておかないと(夏に)上がってこないので、内定があってもなくても関係ないと考えていた。ただ各担当コーチとも話をしていると、実際に緊張感が出てくるのは日本選手権以降かもしれない」(平井コーチ)

 一方で、金メダルを取る実力がある選手に五輪で最大の力を発揮するための調整をさせたいという当初の意義もある。現に瀬戸の場合、内定を得たことで、迷わず昨秋に手術に踏み切った経緯もある。平井コーチは「海外でも前年に代表を内定している国もあるので難しくないのでは。我々もこの制度をずっとやっていくのなら慣れていかなきゃいけない」と説明した。

 もちろん瀬戸や渡部も、代表権を得ていない種目につしては日本選手権で“ガチンコ”で取りにいくことになる。金メダル獲得を奨励するための制度が、有力選手の助けになるのか、あるいは逆に苦しめる材料になるのか-。今夏のリオ五輪が一つの試金石となる。(デイリースポーツ・藤川資野)

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