【ライフ】野趣満点の鳥取・三朝温泉
私が一番好きで、今までに最も多く数十回訪れた温泉が鳥取県にある三朝温泉だ。特に三徳川の流れを見ながら、聞きながら入れる野趣満点の露天風呂である「河原の湯」は、一度入ったら次も入りたくなる素晴らしいものだ。三朝温泉の開湯は約850年前。大久保左馬之祐という源義朝の家来が、年老いた白いキツネと出合い、弓で射ようとしたが見逃してあげた。その夜の夢に妙見大菩薩が現れて、白いキツネを助けたお礼に温泉の場所を教えてくれた-。以後、救いの湯として村人たちの病を治し続けている。そんないわれのある三朝温泉を今回は紹介したい。
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「三朝」を「みささ」と読める人は温泉通と言っても過言ではない。昔、姫新線に急行列車が走っていた。「みささ」「みまさか」がそれで、津山で分かれて「みささ」は因美線経由で倉吉に着く。三朝温泉にちょうどいい時間に入れるような設定だった。
三朝温泉の名前の由来は、3晩泊まって3日目の朝を迎えると、どんな病気も治ると言われたことかららしい。さすがに私は3連泊したことがないが、大病を患うと迷わずこの地で湯治しようと決めている。
最初に訪れたのが19歳の若かりしころ。給湯管から注ぎ続ける温かい湯を手ですくい、今でいう手湯を楽しんだものだ。さすがに女の子が一緒だし真っ昼間で入浴には至らなかったが。
そんな「河原の湯」は現在も水着、下着での入浴ができない混浴露天風呂だ。女性はバスタオルを着けての入浴はできるようだが。
泉質は含放射能/ナトリウム-塩化物泉・単純泉で、世界有数の高濃度ラドンを含み、湯気を吸い込むことで呼吸器の働きがよくなり、以前は「風邪をひかない」と言われたものだ。また湯あみすることで森林浴と同じリフレッシュ効果が得られ、ストレスの解消にもひと役。飲めば消化器系の活性も高まりいいことずくめ。免疫力や自然治癒力が高まる「ホルミシス効果」が得られる。
現在の三朝温泉には三徳川を挟んで両側に24の宿が軒を連ね、昔ながらの温泉街は左岸にある。射的やスマートボールなど、懐かしい遊びに時間を忘れて興じるのもいいだろう。温泉のパイプが土産店の中を通っていて、「ここを触ると温かいよ」と、戸を開けてコンクリートに触れさせてもらった時のぬくもりにうらやましさを覚えたもんだ。
温泉街の東端に位置する株湯は近年リニューアルされ、数メートル南に移動した。湯船に3人入れば一杯となる前身の方が私は好きだった。お湯がボコッボコッと女風呂との境辺りから間欠泉のように湧き上がり、源泉そのままのお湯が掛け流されて熱かったが、いかにも体に良さそうで、狭かったけど風情があった。その前身の株湯は今は足湯となって活躍している。
冬に三朝温泉に宿泊すると、山陰の味覚の王様である松葉ガニの料理がお膳に並ぶ。私は松葉ガニが大好きで、雪が積もっても毎年1回はどこかの宿に食べに訪れる。
定年後は毎日お湯が掛け流れる風呂に漬かって元気に暮らすこと。あくまで夢の中の夢だけど、そんな日が徐々に近づいたな。(デイリースポーツ・柴田直記)