【スポーツ】最年少世界王座へ挑む加納
ボクシングの記録で、これだけは超えるのは不可能だろうと思っていた。元世界2階級制覇王者・井岡弘樹氏(47)の持つ国内最年少、18歳9カ月10日での世界王座奪取。87年10月18日に同氏が達成して以来、29年も破られていないこの“壁”に、今年、挑もうとする若武者がいる。
兵庫県川西市出身、加納陸(18)=大成。中学生時にU-15大会で全国優勝した逸材は井岡氏の記録を逆算し、駆け上がってきた。
国内プロテスト受験は満17歳(現在は16歳)からという規定を待たず、加納は16歳で海外デビュー。海外で7戦5勝1敗1分けとキャリアを積んだ。14年12月には日本最年少17歳でWBAアジア同級王座まで獲得した。
昨年、国内プロテストを受け、同6月に国内デビュー戦を3回KO勝利した。同12月に元WBO世界ミニマム級1位、ピグミー・ゴーキャットジム(タイ)に3-0で判定勝ちし、IBF世界ミニマム級13位、東洋太平洋同級2位のランキングを手にした。
16歳から全速力で難関をクリアして、それでもギリギリ。97年11月16日生まれの加納は今年8月25日が記録へのリミットなのだ。井岡氏は17歳でプロとなった。そこから2年に満たずに獲った世界王座がいかに至難の業かが分かる。
年少でなく最短記録なら、アマチュアエリートが次々と更新してきた。11年、現世界3階級王者・井岡一翔が7戦目、14年、現世界2階級王者・井上尚弥(大橋)が6戦目、昨年、現WBO世界ミニマム級王者・田中恒成(畑中)が5戦目で世界を奪取した。
高校4冠の田中恒成は中京高在学中にプロデビューしたが、18歳9カ月時はまだ2戦で世界ランカーに入ったばかり。世界奪取は19歳11カ月時。超高校級が最短を突っ走っても1年以上も及ばない。
近年、井岡氏超えを狙ったのは元世界2階級王者・亀田大毅氏がいる。07年、あの物議を醸した内藤大助戦で敗れ、18歳9カ月5日での戴冠はならなかった。「亀田」に関しては、賛否あるだろうが、長兄・興毅氏が日本初の3階級制覇を果たし、三男・和毅と合わせ3兄弟世界王者は日本どころか世界初。日本のボクシング史を塗り替えてきた「亀田」ブランドですら、破れなかった記録が井岡氏だ。
加納は言う。「挑戦まで行っても、そこで勝たないとダメなんですもんね」。まだ道は半分も来ていないことを実感する。
大きな関門が5月8日、兵庫県三田市の郷の音ホールで行う東洋太平洋同級暫定王座決定戦。相手は元WBO世界ミニマム級王者で現WBO同1位、東洋太平洋同1位のメルリト・サビーリョ(32)=フィリピン=で25勝(12KO)2敗1分けの過去最強の敵だ。
現王者の熊朝忠(中国)が約半年、試合を行っておらず、異例の暫定王座戦。熊朝忠が王座剥奪か返上となれば、試合は正規王座戦となる可能性もある。8月に「井岡氏超え」の世界戦を組むプランで動いている陣営にとって、勝利が絶対条件だ。
井岡氏本人に会う度に「行けるよ、行けるよー」と新記録へハッパをかけられている加納。不可能を可能にしてみせる。(デイリースポーツ・荒木司)