【競馬】ステラウインドは忘れられない1頭 重賞Vこそなかったが貢献度は大
先日、美浦の尾関知人調教師から連絡をいただいた。「ステラウインドが引退して、乗馬になります」。重賞V歴はなく、新聞上での扱いは残念ながら小さい。だがトレーナーにとってその存在は非常に大きく、忘れられない一頭である。
出会いは10年セレクトセール。1歳セリの上場馬「ビーウインドの09」に目を奪われた。父にゼンノロブロイを持つ黒鹿毛の牡馬。「少しきゃしゃだったけど、バランスのいい馬体。前田幸治社長(ノースヒルズ代表)にお願いして買ってもらったんです。セリで自分が決めて購入したのは、これが初めてだったように思います」。価格は同セールで格安クラスの1000万円(税抜き)。それでも開業2年目の新鋭調教師に生まれた愛着は、プライスレスだったに違いない。
厩舎の序盤戦を支えた功労者こそが同期で同馬主のモンストール(11年新潟2歳S覇者)であり、ステラウインド。3歳時に青葉賞で3着に敗れ、ダービー出走を逃した一戦は、今なお「悔しいレース」として印象深い。「具合もすごく良かった。2年前に青葉賞の優先出走権が2着まで(それ以前は1~3着)に変わったばかりだったんですよね」。競馬とは紙一重と痛感した。
4歳時には13年ダービー馬キズナの帯同馬として渡仏。「4月に1000万下を勝って、降級して6月の1000万下を狙っていた。その中間に帯同の話が来たんです。“これは絶対に次の1000万下で負けられないぞ”って」とプレッシャーをはねのけてフランス行きの切符を獲得し、現地では11年3冠馬オルフェーヴルとフォワ賞・仏G2に出走(5着)。「光栄な話ですよ、ホント」。異国で行われた日本最強馬との対戦は、果たしてどれだけの刺激と上昇志向を若きトレーナーに植え付けただろうか。
「人を育てる」-。馬だけでなく、人間の成長こそが厩舎には必要だと常々考える。「あの遠征に帯同しなかった他のスタッフも、“海外に行くことがあるんだな”って。そう思ったはずなんです。前田社長も、人をつくることを意識している方でしたから」。開業時とほとんど変わらない顔ぶれは、居心地の良さと同時に目的の共有がしっかりとできている何よりの証拠だろう。
結局、ステラウインドはタイトルに手が届かなかった。14年函館記念3着、15年七夕賞2着。善戦すれど勝ち切れずにターフを去り、「そこは本当に申し訳ない気持ち」と頭を下げた。だが、こうも思う。結果だけが全てではないと。全34戦のうち、半数の17戦が重賞。「昔は重賞も緊張したけど、今はさすがに昔ほどではない」という精神的な余裕もまた、ステラウインドが残した大きな蹄跡なのだ。
今年は17日終了時点でJRA22勝。昨年マークした35勝を上回るペースで折り返し、開業8年目にして初の40勝到達も見えてきた。CBC賞をレッドファルクスで制し、4年連続の重賞Vも達成。軌道に乗った裏にはステラウインドから学んださまざまな経験がある。感謝の気持ちを何かしらの形で伝えたい-。通勤中に鳴り響いた携帯の着信音には、そんな思いが込められていた気がしてならない。(デイリースポーツ・豊島俊介)