【スポーツ】千載一遇のチャンス逃した稀勢の里に待ち受ける高いハードル

 大相撲の大関で1998年3代目若乃花以来となる日本人横綱誕生の期待がかかる稀勢の里が、相撲人生で1度あるかないかの昇進チャンスを逃がした。

 千載一遇の好機をものにできなかったのは、24日が千秋楽の名古屋場所だった。春場所13勝、夏場所13勝の好成績が評価されて「1度優勝すればイコール昇進」(八角理事長=元横綱北勝海)という低い昇進条件設定だったにもかかわらず、優勝した横綱日馬富士に1差の12勝3敗で準優勝に終わった。

 昇進条件については、場所終盤に審判部の一部から「優勝がなくても12勝なら上げてもいいのではないか」という声が出たという。最終的には千秋楽に開いた審判部会で「優勝しての12勝なら昇進」という判断に落ち着いたが、日本人横綱の誕生を期待する協会サイドから追い風が吹いていたのは間違いない。

 名古屋場所は対戦相手に恵まれていた。過去の対戦成績ではリードしているものの、楽な相手ではない安美錦と豊ノ島の2人がともにアキレス腱のけがで休場。過去の対戦成績で30勝16敗の鶴竜、28勝32敗の琴奨菊と、苦手の2人がけがで途中休場したため、この4人との対戦を回避できた。

 強力なライバルの不調も有利に働くはずだった。過去13勝43敗の横綱白鵬が本調子ではなく、稀勢の里が栃煌山に敗れて1敗になった5日目には、白鵬も宝富士に金星を献上した。9日目には白鵬と日馬富士がそろって2敗に後退し、稀勢の里は2横綱に1差をつけた。

 にわかに“どうぞ優勝してください”とでも言わんばかりの状況となり、初優勝と昇進が現実味を帯びてきたが、その矢先の10日目に平幕松鳳山のさほど鋭くもない変化についていけず2敗目を喫した。11日目以降は“松鳳山ショック”で立ち合いがバラバラ。最終的に12勝を挙げて、綱とりが秋場所につながったものの、結果的に見れば、10日目で名古屋場所の綱とりは終わりを告げていた。

 審判部の友綱副部長(元関脇魁輝)は場所後に稀勢の里をこう評した。

 「稀勢の里はまだまだ足りない。精神的なものだと思うが、場所中に立ち合いを日替わりでコロコロと変えたり、考え方からして足りない。相撲内容も悪かった。今場所に限って言えば(横綱の)器じゃない。もう一度自分を見つめ直して、来場所また挑戦してほしい」

 名古屋場所後の横綱審議委員会。委員の中には優勝なしでも好成績を挙げれば推挙していいのではとの声もあったというが、守屋秀繁委員長は「優勝なしで推挙して短命に終わったら横審は何を見ているのかとなる」として、名古屋場所と同じ優勝を条件とすることを明言した。

 秋場所は名古屋場所よりも難しい場所になる可能性が高い。けがの癒えた白鵬、鶴竜、琴奨菊がそろうし、日馬富士、栃煌山も再び立ちはだかる。正代ら若手も稀勢の里との対戦を経て、取り口を理解し始めている。3場所連続綱とりの心の疲労も尋常ではない。名古屋場所の絶好機を逸した稀勢の里は、心身ともにより高いパフォーマンスを発揮しなければ、昇進のハードルを越えられないだろう。「あの名古屋を落としたことが…」と後年、後悔しないことを切に願う。(デイリースポーツ・松本一之)

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