【サッカー】日本代表、大島の抜擢にみる「選手を守る」ということ
6大会連続のW杯出場を目指すサッカー日本代表は、1日のアジア最終予選初戦でアラブ首長国連邦(UAE)に1-2と敗れた。予想外の結果とともに周囲を驚かせたのは、バヒド・ハリルホジッチ監督(63)が左股関節に違和感を訴えたMF柏木陽介(浦和)の代役に、MF大島僚太(川崎)を先発として抜擢したことだった。
大島はボランチとして75分間プレーしたが、後半9分には相手の決勝点となるPKを献上し、敗戦の直接的要因となってしまった。ハリルホジッチ監督は試合後、「私のチョイスが悪かった」と自らの起用法が誤っていたとの認識を示し、「このような試合をした時は監督を批判してください。私は選手を守りたい」と、敗戦の責任を一手に引き受けようとした。
「選手を守る」-。それは指揮官として当然の姿勢なのだが、会見で選手を擁護する言葉を発するだけではなく、選手の抜擢に際して細心の注意を払うこともまた、「選手を守る」ことを意味するのではないだろうか。
W杯最終予選初戦が国際Aマッチ初出場初先発となった選手はJリーグ発足以降初めて。それは大島起用がいかに大抜擢だったかを物語っている。例えば、本田圭佑(当時VVVフェンロ)の代表デビューは08年6月のW杯3次予選バーレーン戦だったが、日本は既に最終予選進出を決めており、いわゆる消化試合だった。香川真司(当時C大阪)は08年5月の親善試合コートジボワール戦で、当時の岡田監督は将来ある選手に対して、可能な限り重圧の懸からない試合を“チョイス”している。
ハリルホジッチ監督は8月のリオデジャネイロ五輪で1次リーグ全3試合に出場して3アシストを記録した大島に可能性を見いだしたのだろう。ただ、それは手倉森誠監督のチームであって、A代表で大島が何をもたらすかは未知数の部分が大きかったはずだ。6月のキリン杯で大島を手元に呼んでおり、試す機会はあった。だが、ハリルホジッチ監督は6人が交代可能だったにもかかわらず、2試合で一度も大島をピッチに立たせていなかった。
ベンチには自らがこれまでボランチとして起用してきた山口蛍(C大阪)、原口元気(ヘルタ)に加え、サイドバックとして追加招集した遠藤航(浦和)も控えていた。本来なら彼らの中から柏木の代役を選ぶのが手順だったのではないか。
経験豊富な選手でさえ重圧を感じる最終予選の、しかも初戦を代表デビュー戦にあてる-。大島を信頼していたと言えば聞こえはいいが、あまりにリスクの高い起用だった。若い選手から必要以上の重圧を取り除き、持てる可能性を発揮しやすい状況を整えてピッチに立たせることも「選手を守る」ことだったはずだ。
柏木が3日に練習復帰したことで、6日のタイ戦に大島が起用される見込みは薄い。ただ、自ら「重要な試合」と位置付けた初戦を託した選手を、一度で見限ることがないと願いたい。(デイリースポーツ・山本直弘)