【野球】オリックス、シーズンは最下位でも…守護神はすごいんです
シーズンが終わると野球記者にはある書類が届く。MVPとベストナインの投票用紙だ。パのMVPに日本ハム・大谷を記入しながら思った。もし、オリックスのMVPを選ぶなら平野佳寿しかいないなと。最下位でMVPもおかしいが、その活躍ぶりは下位チームであっても際立っていた。
58試合に登板し4勝4敗、31セーブ、防御率1・92。その成績を見ても素晴らしいが、抑えでありながら1イニング以上を投げるイニングまたぎを10回もこなした。特に6月3日のヤクルト戦(神宮)では八回無死満塁から登板し、2イニングを抑えると、翌4日も八回2死一、二塁から火消しに登場するフル回転ぶりを見せた。福良監督も「あそこは平野しかいない。よう粘ってくれた。きょうは平野に尽きる」と絶賛。本人は「明日もいけるように僕は準備します」と泣かせるセリフをさらりと言ってのけた。
現代の野球では御法度ともいえるイニングまたぎ。褒められたことではないが、戦力不足の中、チームに勢いを付けるための策としてはこれ以上に有効な手は見当たらない。事実、このときには第3戦を打線の爆発で勝利し、初のカード3連勝へとつながった。
ブルペンを預かる星野投手コーチは「平野は無理を言ってもでも嫌な顔一つ見せたことがない。“ハイ、行きます”と言ってくれる。本当に頭が下がる」と話す。その奮闘ぶりはチーム成績が振るわないために目立つことはなかったが、MVP級であったことは間違いない。本人はいつでも「チームを勝たせるのが仕事ですから。準備するだけです」としか言わない。この黙々と仕事をこなす姿がプロを感じさせる。
2014年は40セーブの当時のパ・リーグ記録を樹立したが、昨季は開幕直後に故障し、守護神の座から転落した。そのため球団は新外国人のコーディエを獲得し、抑えを託した。ところが、この助っ人が不調のため、4月半ばから平野が再びストッパーの座に戻ることになった。1度は失格の烙印(らくいん)を押されたにもかかわらずチームのピンチに黙って、最も重たい仕事を引き受ける。その姿が格好良い。
普段は塚原や海田ら後輩がいつもそばにまとわりつく。自販機の前で「お兄ちゃん!」とふざける2人に笑って小銭を渡すほほえましい場面もよく見る光景だ。
強く、優しく、たくましく。ピンチに出て行って抑える姿は火消しと呼ばれた一時代前の守護神と重なる。こんな魅力的な選手に来季こそ本物の栄誉が送られることを願いたい。(デイリースポーツ・達野淳司)