【野球】ドラフトの主役、田中正義は話術にも大物感…鋭い切り返しで1300人笑わせる
22歳の堂々とした姿に感心してしまった。20日に行われたドラフト会議。最多5球団からの1位入札を受けた創価大・田中正義投手は、異様な熱気に包まれた会見場でも落ち着き払っていた。
学内のホールに集まった報道陣は51社143人。20台近いテレビカメラが並ぶ。ひな壇に座る自身の姿は全国に中継される。ドラフト会議をパブリックビューイング形式で見守った会見の会場には、約1300人の学生や大学関係者も詰めかけていた。
大観衆を前にした経験はあっても、マウンドとは別物。緊張した様子が見られるかな、という予想は裏切られた。指名を待つ間も時折、隣の岸雅司監督と談笑。印象的だったのは、ソフトバンクの交渉権獲得が決まってからの質疑応答だ。
5球団から次々と名前がコールされても表情が変わらなかったことを問われると「なるべく変えないようにしていました」と、ちゃめっ気を交えて回答。そして、テレビ局からの「プロでは、大谷選手の“二刀流”だとか、どのような“あだ名”をつけてほしいですか?」という質問には「まず“二刀流”は“あだ名”ではないです」とニヤリ。鋭い切り返しに、場内からはドッと笑いが起こった。
試合後の取材では、べらべらと冗舌にしゃべる選手ではない。しっかり言葉を選ぶ。ただ、どこかでボソッと心に残る表現をする印象はあった。ドラフト前日には、心境を四字熟語で問われ、あえて四字熟語ではなく「人事を尽くして天命を待つ、が正解ですかね」と、見出しになるようなことわざを口にしていた。
栄養学も自分で勉強するほど野球中心の生活を送る中で、田中のリラックスタイムがバラエティー番組。お気に入りの芸人は博多華丸・大吉で、特に大吉が好きだという。体を休めながら小説を読んで過ごすことも多く、オススメには東野圭吾の「加賀恭一郎シリーズ」を挙げていた。的確な言葉と間(ま)で受け答えできるのは、こうした背景も理由の一つかもしれない。
そして、それを1300人の前でもサラリとやってのける強心臓がある。楽天からドラフト2位指名されたチームメートの池田隆英投手が、同じ壇上でなかなか緊張を隠せなかったのとは対照的だった。創価高時代から7年間、一緒の時間を過ごしてきた池田が「これだけ注目されても、正義はまったく変わらない。本当にすごい」と話したのには説得力があった。
アマチュア時代とは比較にならない視線と関心が向けられるプロの世界。誰もが資質を認めながら、力を十分に発揮できない選手は少なくない。だが、ぶれないメンタルと卓越したコミュニケーション能力を感じさせる田中には、その心配はなさそうだ。ピッチングはもちろん、グラウンド外でもファンの期待に応えられる球界のエース。そんな近未来を想像した。(デイリースポーツ・藤田昌央)