【サッカー】鹿島の準Vの影でビデオ判定の賛否分かれる

 昨年12月のクラブW杯でJ1鹿島が、世界屈指の強豪であるレアル・マドリード(スペイン)と堂々たる戦いを見せ、大きな注目を集めた。

 鹿島の準優勝で大きな熱狂をもたらした大会となったが、その一方でFIFA主催大会では初めてとなるビデオ判定の試験導入を行うなど、テクノロジー面でも歴史的な大会となった。世界中の各方面から賛否が叫ばれたビデオ判定。テクノロジーの進化によって正しい判定が増えることにはなるだろうが、一方では“マリーシア”などのサッカー独自の文化が廃れることも危ぐされている。

 その瞬間が訪れたのは、準決勝の鹿島-ナシオナル・メデジン(コロンビア)戦の前半30分だった。突如として試合が中断。大型ビジョンには、しばらく間があってから『ビデオ判定中』の表示がなされた。

 直前にあったFKの際に、鹿島DF西がペナルティーエリア内でファウルを受けたと映像で判断した補助審判が、主審に無線で通知。主審自ら映像を見た上でPKというジャッジを下した。鹿島に与えられたこのPKから生まれた得点が、結果的に決勝点となり、鹿島はアジア勢で始めてとなるクラブW杯の決勝進出を決めた。

 これまで、FIFAはビデオ判定を国際親善試合などで試験導入していたが、実際にビデオ判定でPKが与えられたのは前述の一戦が初めてのケースだった。それだけに、このビデオ判定によるPKは『歴史的PK』として世界中で報じられていった。

 基本的にビデオ判定が用いられるのは、PKの有無など試合を決するプレーに対してのみ。主審自ら映像を見返したことで、見落としていたファウルを遅れて判定ができるということは、おそらく正しい判定が増えることにつながるだろう。

 ただ、実際にプレーしている選手や監督たちからの評判は決してかんばしくはない。“正しい判定”による恩恵を受けた鹿島の石井監督でさえも「ウチとしては(ビデオ判定は)有効だったが、テクノロジーで試合の流れが途切れるのは、僕個人としてはどうかと思った」と語った。また、レアル・マドリードのMFモドリッチも「新しいシステムは好きではない。混乱を引き起こす。試合に集中できないし、続いてほしいとは思わない」とコメントするなど、現場からの歓迎の声はなかなか聞こえてこない。

 さらには「ビデオ判定が当たり前になれば、マリーシアってなくなるのかな」という声も聞こえてくる。ポルトガル語で「駆け引きの巧みさ」や「ずる賢さ」を意味するマリーシアは、主に南米出身の選手たちの“武器”としても捉えられることもある。

 日本代表のハリルホジッチ監督も「日本人に足りないもの」と位置づけている。「自分が現役時代は、審判に見えないところでずる賢いプレーをするのが得意な選手だった」と語るが、もしそこにビデオ判定があれば、レッドカードのコレクターになっていてもおかしくはないだろう。

 確かに、スロー映像を見返すことができるようになれば、相手や審判を欺くようなプレーは徐々に減っていくだろう。それは日本サッカーにとっては有利なのかもしれないが、南米特有のマリーシアあふれるプレースタイルが見られなくなるとしたら、それはそれでさみしいとも思ってしまう。

 歴史を振り返れば、ある意味での誤審もサッカー史の一部となっている。マラドーナの“神の手”のような伝説的なものもあれば、日韓W杯でのスペイン-韓国戦など、目を覆いたくなるような誤審もあった。FIFAとしても長い検討期間を経て、今回のクラブW杯からビデオ判定を導入することに決めている。それだけにインファンティノ会長も「これまで、幾度となく『ビデオ判定を導入するべきだ』と指摘を受けてきたが、実際に試験導入すると反対意見も出る」と苦笑いする。

 サッカー界でビデオ判定が当たり前となるまでには、まだまだ長い時間と多くの議論が必要になってくるだろう。競技としての公平性は高まってほしいと思う一方で、人間くさい選手、監督、主審による絶妙な隠し味によって、後々まで語りたくなるような試合も見てみたいと思ってしまう。(デイリースポーツ・松落大樹)

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