【スポーツ】シンクロ井村コーチが体現した“グローバル” 国境を超えた明快な理念
1月16日に大阪市内で行われた「第60関西スポーツ賞」の表彰式。関西運動記者クラブが選定する受賞者の中で、ひときわオーラを放っていたのがシンクロナイズドスイミング日本代表の井村雅代ヘッドコーチ(66)だ。
リオデジャネイロ五輪で2種目で銅メダルに導き「シンクロ日本」を復活させた指導力には他競技のアスリートも注目。フィギュアスケート界の新星、本田真凜(関大中)は同じ審美性を競う競技として助言を受け、天理大の後輩にあたるリオ五輪柔道73キロ級金メダリストの大野将平(旭化成)も対面に目を輝かせていた。
壇上で井村氏は「この賞を頂くのは久しぶり。考えれば10年も日本にいませんでしたからね」とあいさつした。14年に日本の指導に復帰するまでは中国、英国の代表コーチを務めた。米国、スペイン、韓国での短期指導の経験も踏まえて「スポーツこそグローバル(社会)を実現できる」と断言する。
中国に渡った時には、国内でバッシングが巻き起こった。「かなり言われました。新聞に『国賊』と書かれたりもした」。また、英国では東洋人から芸術面や表現力を学ぶことを毛嫌いする選手もいたという。
しかし、井村氏は常に結果を出すことでハードルを乗り越えてきた。「英国では、何を言ってもそっぽを向いている子がいた。だから別の選手を徹底して鍛えてやったの。その子はあっという間にうまくなった。すると、そっぽを向いていた子も『先生“おはよう”って日本語で何て言うの?』なんて言ってきた。そうなればこっちのもんね」
リオでは、中国チームの関係者から「先生の生徒が4人も表彰台に乗ったよ」と感謝された。「あの人たちは昔の恩を忘れない」。一つの目的でつながった絆は、時間を経ても強固だった。
井村氏のように日本のトップ指導者が海外のナショナルチームを指揮するのはまれだ。「言葉が通じない。(結果を出すまでの)時間も永遠ではない」。リスクは大きくリターンは不明瞭。その中で「いかに選手を大切にするか、私と出会ってよかったと思わせることができるか」を貫いてきた。
人種も文化も、国民感情もそれぞれだが「実績を出す」ことで選手はついてくる。スパルタ指導で知られる鬼コーチの理念は明快。だからこそ、国境を超えられるのだろう。(デイリースポーツ・船曳陽子)