【相撲】稀勢の里初Vで沸いた初場所 元ホテルマン遅咲き“イーグル”の躍進も見逃せない
大相撲初場所(22日千秋楽)は、大関稀勢の里(30)=田子ノ浦=が悲願の初優勝を果たした。横綱白鵬(31)=宮城野=が横綱昇進後初めて4場所連続で優勝を逃し、日馬富士(32)=伊勢ケ浜、鶴竜(31)=井筒=の両横綱が故障で相次ぎ途中休場。押し寄せる世代交代を感じさせる17年の幕開けとなった。
そんな中、モンゴル出身、32歳新関脇・玉鷲(片男波)の大暴れが土俵を沸かせた。10日目、鶴竜を一方的に突き出し、翌日から休場に追い込んだ。12日目にはかど番大関琴奨菊を押し出して、大関陥落を決定させた。
経歴は異色で元ホテルマンだ。モンゴル相撲出身者は四つ相撲を得意とするが、相撲経験がなく角界入りした玉鷲は押し相撲だけを磨きに磨いてきた。今場所、初土俵から77場所は史上5位のスローで関脇に昇進した。
師匠の片男波親方(元関脇玉春日)が「四つは幕下にも負ける」と言う程もろい。強力な突きをしのがれると、なすすべなく負けるのがパターンだった。
変わったのは、昨年名古屋場所で右膝を負傷した後だ。親方によれば「膝が痛いから、膝にかかる力を逃がそうと動くようになった。膝の使い方を理解し、コツをつかんだ。まさにケガの功名だった」と、説明した。
189センチ、168キロの恵まれた体格。突きが強いため、上体の力である程度は勝てていた。ただ、膝が伸び切るため、はたかれてバッタリが悪癖だった。今はクッションとして膝の曲げ方を知る。回り込まれても足が付いていくため、はたきにも落ちなくなった。
「すり足、四股、昔は数をこなすだけだったけど、今は理解して腰を落としてやれる」と玉鷲。下半身の使い方を理解したことが、必殺の突きにも好影響を与えた。
右手の握力は94キロ。左手も80キロを超える。下から手のひらを相手の顔に突き刺すと、相手のアゴを指でまさに“鷲づかみ”にする。「自分の突きはスピードや回転じゃない。1回ずつ力を入れる」。体ごと打ち込むヘビー級の打撃と“イーグル・クロー”。この2段階攻撃が、上位でも一気に土俵外へ吹っ飛ばすことを可能にした。
愚直に突き1本の男ながら、趣味は裁縫、小物作り。かわいい飾り、服なんかも自分で作ってしまう。素顔も魅力いっぱいだ。新関脇で9勝6敗は立派な遅咲きの“イーグル”。32歳ながら大関候補に急浮上してきたのは間違いない。(デイリスポーツ・荒木 司)