【野球】難病克服のオリックス・安達がスマイル封印のワケ
キャンプの朝。若手が早出で打撃練習を行っている。そのグラウンドの端、外野フェンス際を一人で黙々と走っている選手がいた。オリックスの安達了一内野手だった。
彼にとっては2年ぶりの宮崎だ。昨年1月に国指定の難病「潰瘍性大腸炎」を発症。そのまま入院した。キャンプは不参加。戦列に加わったのは4月中旬から。そこから病気と闘いながらの苦しいシーズンを過ごした。
「去年の今ごろはベッドの上でしたから。パソコンでキャンプの中継見てました。今は全然、問題ないですよ。もう誰も気を遣ってくれなくなりました」
照れ隠しのようにジョークを飛ばす。その横から通りがかった伊藤が「体、大丈夫ですか?」と心配顔で尋ねた。「うん、大丈夫」。ふとしたところで優しい言葉をかける。このチームのいいところだ。
そんなチームを安達は変えたいという。冷たくなれと言うわけではない。厳しさを加えようというわけだ。
「このキャンプで笑顔は控えようと思ってるんです。T-岡田とも話をして、僕ら2人は特に。笑顔が悪いわけじゃないけど、厳しさというか、ピリッとしたところも必要なんじゃないかと思って」
確かに今年は、明るく和気あいあいとしていた昨年までの雰囲気と少し違う。暗いわけではない。どちらかというと、練習に打ち込んでいるように見える。
そういえば、今年から選手会長になったT-岡田もキャンプ前日にこんな話をしていた。
「なんとかチームを変えたい。去年は一つの負けに対する気持ちが軽いと感じた。“あーきょうも負けた”って淡々と受け入れているようだった」
安達とT-岡田は同い年。仲の良い2人の周りにはいつも笑顔があった。それがひたすらにまっすぐボールに向かっている。率先してチームの意識改革を進めているのだ。
安達は連日のように特守、特打を敢行している。まるで病気などなかったかのようにハードなメニューをこなしている。
「ほかのチームでもやってるでしょう」
特別扱いはもういらないと言わんばかりだった。
安達の今の願いはキャンプ地である宮崎・清武にたくさんのお客さんに来てもらうことだと言う。
「スタンド少ないですよね。やっぱり、見られてやると選手のやる気も全然違う。ファンの方にたくさん来てほしいですね。清武まで」
清武まで来てもらいたい。これまでのオリックスのようなさわやかなスマイルは見られないかもしれない。だが、一つのボールに必死で向かって行く選手たちの表情もいいものだと思う。(デイリースポーツ・達野淳司)