【スポーツ】瀬古VS増田の舌戦に見たマラソン復活の予感 お家芸復活へ一丸
リオデジャネイロ五輪の惨敗後、マラソンの強化部門は一新された。今年8月の世界選手権(ロンドン)の選考を兼ねた1月29日の大阪国際女子マラソンのレース後、強化戦略プロジェクトリーダーに就任したばかりの瀬古利彦氏(60)の総括記者会見で、思わず膝を打った一幕があった。
「明美ちゃん、明美ちゃん、しゃべってよ」。瀬古リーダーが元五輪代表で現解説者の増田明美さん(53)を質問者に指名。増田さんは「瀬古さんが言ってくださったので遠慮なく」と切り出し、遅めの設定だったペースメーカーの先を行く選手がいなかったことを指摘した。「勇気がなかったのかしら?将来のことを考えて、押していくこと(先行すること)も指摘していくんですか?」
瀬古リーダーは「それくらいの力があったら最高。でも、今のところはそんな選手はいないね。Qちゃんや野口のような2時間20分くらいの走力をつけてほしいんだけど」と返答。質疑の内容そのものより、2人のあうんの呼吸にマラソン界の今後が見えた気がしたのだ。
代表選考は五輪でも世界選手権でも議論の的になる。これまでの強化担当者も、説明責任を果たすためにていねいに取材に応じてきたが、複数レースが対象となる限り“突っ込まれどころ”は必ず出る。担当者が曖昧な物言いになるのは、仕方がない部分もあると感じてきた。
そんな中で、常に舌鋒(ぜっぽう)鋭く「本当にそれでいいんですか?」と質問を浴びせてきた増田さん。偶然かもしれないが、瀬古リーダーがいの一番に彼女を指名したのは、東京五輪でのマラソン復活へ向けて、耳の痛いこともそうでないことも、すべてを受け入れ、そこから発展させていく覚悟を示しているように見えた。
同じ会見では、有森裕子さん、高橋尚子さんの五輪メダリストたちも競って質問した。元有名選手である解説者が公の場所であれほど活発に質問するのは、他競技であまり見ない光景だ。ただ、そこに自己顕示欲は感じられない。批判を恐れない瀬古リーダーも、オリンピアンたちの思いも、お家芸の復活へ一丸なのだと思う。
千葉・成田高時代に一躍脚光を浴び、マラソン界の新星となった頃の増田さんは、くしくも「女・瀬古」と異名をとった。期待されたロサンゼルス五輪での途中棄権で五輪代表の辛苦は知り尽くしている。
今回導入された、後半にタイムを上げる「ネガティブ・スプリット」について瀬古リーダーは「よければ続けるし、悪ければ変えるかも」と話し、臆せず新たな試みに挑戦する姿勢だ。その中で繰り広げられるであろう「瀬古VS女・瀬古」の舌戦に胸が躍る。
同時に、われわれ新聞記者も増田さんに負けじと気持ちを引き締めなければならない。(デイリースポーツ・船曳陽子)