【競馬】今週で見納めの武幸四郎騎手 記者独断による名騎乗5選
武幸四郎騎手が26日の騎乗を最後に、20年の現役生活にピリオドを打つ。19日終了時点でJRA通算693勝(重賞28勝、うちG1・6勝)は、競馬界のレジェンドである兄・豊騎手にはさすがに及ばないものの、多くの驚きと感動を与えてくれた。177センチの長身を生かしたスマートな騎乗フォームとは裏腹に、レースぶりは実に大胆不敵。“コーシロー”の愛称でファンに愛された男が見せてくれた数々の名騎乗を、記者の独断と偏見で選んでみたい。
☆5位・97年マイラーズC
デビュー2日目での初勝利が重賞V。そんなアンビリーバブルな偉業はこの男しかできない。騎乗したのは14頭立て11番人気の伏兵オースミタイクーン。直線を向いて馬群がばらけた瞬間、神様がVロードを導いたかのごとく進路が開けた。そのまま馬場の真ん中を豪快に突き抜けゴール。JRA史上最年少重賞勝利記録(18歳3カ月)を樹立し、ジョッキーとしての門出を華々しく飾った。
☆4位・00年秋華賞
記念すべきG1初勝利を飾った一戦。確固たる本命馬不在の混戦を断ち切ったのは、当時まだ自己条件を勝ち上がったばかりのティコティコタックだった。レースはスタートから好位のインをロスなく追走。4コーナーを最短距離でクリアし、逃げ粘る2着ヤマカツスズランをきっちり最後にとらえた。巧みな手綱さばきで10番人気の穴馬を勝たせた印象が強く残っている。
☆3位・00年根岸S
競馬史に残る脅威的な追い込み一気を決めたレース。最後方から進んだブロードアピールのポジションは、直線を向いた時点で先頭を行く馬のはるか後方。もはや絶望的ともいえる位置から周りが止まって見えるほどの鬼脚を繰り出し、最終的には全馬を差し切ってみせた。鞍上が引き出した究極の瞬発力は一見の価値ありだ。
☆2位・06年菊花賞
騎手の腕が問われる長距離戦で魅せた。まだ重賞を勝ったことのない8番人気ソングオブウインドで、三冠達成が懸かるメイショウサムソンなどの強敵を相手に大金星。後方3番手から坂の下りを使って一気に進出すると、最後の直線を外からさっそうと駆け抜けた。
★1位・13年オークス
現在までG1・3勝を挙げる騎手人生のベストパートナー・メイショウマンボに最初のG1タイトルをもたらしたレース。兄・豊騎手のクロフネサプライズが飛ばす展開のなか、道中は中団のラチ沿いで折り合いに専念。完璧なタイミングで直線外に出すと、残り300メートルで力強く抜け出した。つらいときも支え続けてくれた松本好雄オーナーへの感謝の思いに、表彰式ではあふれる涙をこらえ切れなかった。
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これまで数多くのドラマチックなレースを見せてくれた武幸四郎騎手の騎乗も今週で見納め。今後は昨年亡くなった父・邦彦氏の意志を継ぎ、調教師として新たな道を歩むことになる。ジョッキーとしては“穴男”のイメージが強かったコーシロー。調教師としても個性的な馬をターフに送り出してくれるに違いない。(デイリースポーツ・刀根善郎)