【野球】申告制敬遠を考察…松井を5打席連続で歩かせた馬淵監督に聞く
メジャーリーグで「申告制敬遠」、つまり、投げずとも意思表示をすれば敬遠が成立するというルールが導入されそうな見込みだ。それにともない日本球界でも賛否両論が飛び交っている。敬遠といえば、1992年夏の甲子園で、当時、星稜(石川)の4番打者だった松井秀喜に対し、全5打席、敬遠を行った明徳義塾(高知)を思い出す。その作戦を指示し、猛烈なバッシングを浴びた明徳義塾の馬淵史郎監督に「申告制敬遠」についての意見を尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「俺は、反対よ」
敬遠は、あくまで「勝負」だ。その言葉がしっくりこないのであれば「選択」でもいい。一塁に歩かせるというリスクを背負い、次打者と戦うことを選ぶのだ。いずれにせよ、試合を放棄するわけではないのだから決して「逃げ」ではない。
にもかかわらず「逃げ」の印象が強いのは、投手が意図的に大きく外している姿が影響しているのではないかと思う。そうであれば、その作業を省いてしまった方が、より作戦としての意味合いが強まるではないか。
しかし、馬淵は言う。
「敬遠のボールを4つ投げるのも技術。いい加減に投げると、けっこうバランス崩すんよ。攻撃する側だったら、ふわーっと投げてる場合は、次のバッターに1球目、狙っていけって言いますよ。そこも駆け引き。それが野球。敬遠のボールが暴投になることもあるし、打てると思ったら打ったっていい。松井も打とうと思えば打てる球、あったんやから」
馬淵は昨今の野球界における試合時間を短くすることばかりに躍起になっている傾向に苦言を呈する。
「タイブレーク制なんて、野球じゃない。野球そのものが、どんどん変になる」
申告制敬遠がメジャーで正式採用されれば、やがて日本プロ野球でも導入され、そしてアマチュア野球にも取り入れられる運びとなるだろう。
甲子園では、松井の5打席連続敬遠以降、球場のブーイングが怖くて、敬遠をしにくくなったという現場の声もよく聞く。明徳義塾と星稜の試合でも、ピッチャーの投じたボールが大きくボールコースに外れるたびに、ブーイングのボリュームが高まっていった。
あの時代、仮に申告制敬遠があったならば、あれほどの騒動にはならなかったのではないか。ファンももう少し冷静に敬遠を作戦として受け止められたのではないか。
そう問いかけても、馬淵はブレなかった。
「ブーイングされても、やらないかんときはやるよ。勝負やもん。大ブーイングを受けた本人やけど、申告制は反対。そんなこと、俺に聞くなよ(笑)」
さすが、である。(ノンフィクションライター・中村計)