【スポーツ】“V字回復”柔道男子、井上監督著書から読み解く“現代の強さ”

 柔道日本男子代表の井上康生監督(38)が書き下ろした著書「改革」(ポプラ社・税別1500円)。昨年12月に発売され、このたび重版が決まるなど、反響を呼んでいるという。史上初の金メダルゼロに終わった12年ロンドン五輪の屈辱から、全階級でメダルを獲得し“V字回復”した昨夏のリオ五輪までの4年間の記録が詳細に記されており、さまざまな組織を受け持つリーダーへの指南書としても広く読まれているようだ。

 現役時代は代名詞の内股を中心に、多彩な技と戦術眼で全日本選手権3連覇を果たすなど、エースとして活躍した井上監督。指導者となってからの自問自答を著したこの一冊は「強くなるには、勝つにはどうすればいいか」という問いへの一つの回答となっており、柔道に限らず、他の競技者や、あるいはビジネスマンが読んでも参考になる部分が多い。

 しばしば“脱根性論”で効率的な強化を重視し、改革に成功したように理解される井上強化体制だが、それは正確ではない。気合や根性というものを重視しており、著書でもその端緒がうかがえる。中でも目からウロコが落ちたのが、第4章の「若者を見て『ハングリー精神がなくなった』と嘆く人がいますが、日常的にハングリーである必要がないのだから、それが当たり前であって、過去と比べる方が間違っている」(180ページ)という記述だ。

 ハングリー精神に飢えた過去の偉大な柔道家をたたえる一方で、日本社会の変化を冷静に踏まえつつ、現代の選手にはあえて劣悪な環境や非効率的な練習をやらせることで「野性」を呼び覚ますのだという。

 あるいは「日常と非日常、あるいは科学と非科学、効率と非効率。監督就任以来、こうした相反するもののバランスを取りながら強化を進めてきました」(214ページ)。科学的トレーニングを重視するなど強化の効率化を図る一方で、柔道は格闘技である以上、根性や闘争心抜きに強くなることはありえないというバランス感覚がうかがえる。

 2020年東京五輪に向けて、国際ルール(IJFルール)が改正され、「有効」の廃止、男子は試合時間が短縮された。対応が急務となる一方で、井上監督は「それで試合時間が短いとか、指導が入るタイミングが遅いとか言っている選手は、この世界では戦えない」と厳しく言い放つ。相手と対峙(たいじ)し、どんな変化にも打ち勝つ柔軟性と対応力。そんなバランス感覚が、現代における強さと言えるのではないだろうか。(デイリースポーツ・藤川資野)

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