【野球】センバツ出場の健大高崎 成長の裏に“究極データ”
球春到来を告げる選抜高校野球大会が、19日に甲子園球場で開幕する。10日の抽選会で組み合わせも決定。いよいよ大会への盛り上がりも高まってきた。
取材を重ねた中で印象に残った学校がある。2年ぶりにセンバツに出場する高崎健康福祉大高崎(群馬)だ。積極的かつ高度な走塁で相手を崩す『機動破壊』のスローガンに象徴されるスタイルは、独特の存在感を放つ。今回驚かされたのは機動力ではなく、高校野球のレベルを超越した圧倒的な“データ野球”によるチーム作りだった。
裏表紙に門外不出と記されたファイルは全部で115ページ。内容を見せてもらい「これが高校野球のデータか」と目を疑った。新チーム結成の8月から11月末まで、チームと全選手の成績をもれなくカバー。すべての実戦の膨大なデータを処理し、64人の選手全員の能力分析と課題把握を行うのだ。
データ採取の対象は練習試合、公式戦を問わない。ベンチ外の部員が主体のいわゆる『B戦』も含まれる。今季はA82試合、B64試合が対象だった。作成されたファイルは、毎年12月に行われる合宿の初日に全部員に配布。3時間近いミーティングでチームと個人の傾向や長所・短所を共有し、以降の練習の方向性を明確にする。そこから春に向けた強化がスタートする。
「数字は嘘をつかない。生徒を正確に判断するには、物差しが必要。『打っているだろう』、『抑えているだろう』ではダメなんです。思い込みを覆すことは、新たな戦略・戦術を生み出す契機になる」。02年の創部から指揮を執る青柳博文監督は、意図を説明する。スタッフに分析の専門家がいたこともあり、2季連続で甲子園に出場した12年春ごろに導入された。
驚いたのはデータの細かさだ。攻撃20項目、投手・守備は26項目。打率や防御率、失策はもちろん、けん制死、被安打率、犠打封殺・刺殺なども掲載。その46項目に加え、セイバーメトリクスの数値がさらに16項目ある。出塁率と長打率を足したOPS、前の投手が残した走者を生還させてしまった割合を示すIR%など、メジャーリーグの資料かというような数値が並ぶ。
64人の選手全員に、各数値、それをもとに作成した五角形のグラフで現状を示し「8割以上なら全国レベル」、「2点台でないとベンチ入りは厳しい」など、具体的な規準も明確に説明。過去2年のデータも掲載されており、身近な先輩たちとの比較もできて分かりやすい。
データは春以降の実戦でも取るが、秋のものがより重要になる。把握した課題をじっくりと練習できるのは、冬の期間だからだ。苦手分野に時間を多く割き、夏をにらんだ強化も図れる。青柳監督は「高校野球は無駄が多い。いかに無駄をなくせるかが大事。基本の課題は個人でやるもの。チーム練習でやることではない」と断言する。
全選手のデータ提示は、違う効果も生む。自分がライバルより何が優れて何が劣るのか。目に見えて分かることで、競争意識が生まれる。また、練習メニューや指導にも納得した上で取り組める。
主将の湯浅大内野手(3年)は昨冬、不安のあった守備に注力。前年より失策数は4割も減った。「もっとやらないといけないと思うし、自信にもなる」とメリットを認めれば、四死球率と防御率を向上させたエースの伊藤敦紀投手(3年)も「弱点が分かる。目安としていい」と、前向きに捉えていた。
データは一見、無機質に見える。しかし、健大高崎では違う。15年夏の甲子園では、ベンチ入り18選手が全員出場した。「みんなにチャンスがあると思わせることが大事」と青柳監督。自分の役割は何かを選手が考えるようになり、適材適所で力を発揮する。データ野球は「全員野球」でもある。ファイルの最後には、保護者の感想記入欄があり「我が子をそこまで見てくれているのか」と、感謝する声も多いという。
過去2度のセンバツは4強と8強。冬場の課題克服が的確なため、春に強いという見方もできる。最重視する出塁率で初めて5割超えの選手も出るなど、現チームの数値は歴代トップ。豊富なデータに裏付けられた自信を持って、初の全国制覇に挑む健大高崎の戦いぶりに注目したい。(デイリースポーツ・藤田昌央)