【スポーツ】競泳5冠の池江璃花子、解禁した2つの「初」

 16日に閉幕した競泳の日本選手権(名古屋市ガイシプラザ)。最終日は、リオデジャネイロ五輪7種目に出場した高校2年の池江璃花子(16)=ルネサンス亀戸=が、女子では史上初となる5冠を達成し、大会を締めくくった。

 筆者のようにプールサイドで指をくわえて見ているだけの人間としては「勝って当たり前」という見方もしてしまうのだが、4日間でスプリント競技5種目を泳ぎ切るのはとてもハードなこと。本人は「負けるかもしれないというネガティブな気持ちもあった」と打ち明ける。これまで代名詞のように連発してきた自己ベスト=日本新記録は不発。だが、全種目で7月の世界選手権(ブダペスト)代表の選考基準も突破した上で勝ちきり、「本当に達成感でいっぱい」と涙ぐんだ。

 もはやエースの風格が漂う。しかし、日本選手にとって難関種目である短距離の自由形&バタフライで世界に殴り込みをかけるからこそ、成長速度を緩めるわけにはいかない。

 今夏の世界選手権でも「1つでもメダルを獲りたい」と闘志を燃やす池江が、リオ五輪以降に解禁した2つの「初」があった。

 一つは、高地合宿。酸素の薄い山地で泳ぎ込むことで血中酸素が増加し、心肺能力が高まるとされる。競泳界では、ほとんどのトップ選手が取り入れているトレーニング方法だ。

 池江は昨年末から約3週間、メキシコの標高約2300メートルの山地で、人生初めての高地合宿を敢行した。平地に比べ、当初は泳ぎ込めなかったが、最後には納得いく練習ができた。「過酷な環境で耐え抜く自信もついた」。血中のヘモグロビンは2割増加し、パワーがついた。

 1月の東京都選手権では、200メートル自由形で初の日本新記録を樹立。さらに、専門外の200メートル個人メドレーでも日本3人目の2分9秒台をたたき出した。

 もう一つは、息継ぎをせずに50メートルを泳ぎ切る無呼吸泳法、「ノーブレ」だ。息継ぎによるタイムロスを少しでも減らす目的だが、当然、苦しい。導入に難色を示していた池江に、指導する村上二美也コーチはバタフライの世界記録保持者・シェーストレム(スウェーデン)の動画を見せながら「この記録を狙うなら、呼吸なんかしてたら出せないよ」と諭し、納得させたという。

 試合で初解禁した2月のコナミオープンでは、50メートル自由形で日本新記録を更新。今回の日本選手権でも、4冠目となる50メートル自由形決勝で「別にやることは意識してなかったけど、途中でいけると思ったので」とアドリブで無呼吸で泳ぎ切り、後続に大差をつけた。

 どちらの“初”も以前は池江自身が「しんどい」という理由で毛嫌いしていたものだ。村上コーチはこう話す。「まだ16歳の子供で『苦しいのは嫌だ嫌だ~』っていうのと、かたや日本記録保持者として『やらなきゃいけないな』という2人がいるんですよ」。池江の中に存在する“ジキルとハイド”のように相反する人格。そして、「だんだん大人にはなってきている」と、日本代表としての自覚の高まりを認めている。

 「まだやらせたい課題はたくさんあるんですよ」と同コーチ。高地合宿再挑戦も含め、さらなる進化の可能性を秘めている。東京五輪まであと3年と3カ月。真の“大人”になったとき、どこまで強い選手になるのか。楽しみは尽きない。(デイリースポーツ・藤川資野)

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