【スポーツ】村田の敗因になった?リングジェネラルシップとは
ボクシングのWBA・ヒルベルト・メンドサ会長が25日、世界ミドル級王座決定戦(20日)でロンドン五輪金メダリストの村田諒太(31)=帝拳=が不可解な判定でアッサン・エンダム(33)=フランス=に判定負けした試合について両者の再戦を命じた。村田の負けと採点した2人のジャッジは6カ月の資格停止処分となった。
これまで何度も「疑惑の採点」と言われた試合はあったが、ほとんどの場合、関係者の意見は多かれ少なかれ分かれていた。しかし、今回に関しては会場のボクシング関係者、テレビ観戦した他ジムの関係者など、記者が取材した範囲では一人も村田に負けをつけた人はいなかった。それほど、村田の勝利は明確だという印象だった。
同じ“印象”でも、こちらの方はやっかいだ。今回の世界戦では「手数」と「有効打」の問題が取り上げられているが、ある日本ボクシングコミッション(JBC)関係者は、鍵は「リングジェネラルシップ」ではなかったかと分析する。これが印象によって大きく左右される可能性がある。
この項目は、通常は採点基準の3、4番目に位置する。JBCのホームページでは「(4)リング・ジェネラルシップ」として「どちらの試合態度が堂々としていて、戦術的に優れていたか。どちらが主導権を握っていたか」と説明されている。
JBC関係者が「試合をコントロールしているかどうかの判断に、ジャッジの主観が入ることは避けられない」と言うように、採点基準の中では最も曖昧な項目かもしれない。極論になるが、例えばロープに詰められてもそれがその選手の戦法であり、試合を支配しているとジャッジが受け取れば、ポイントはそちらにつくこともあるということだ。
今回の世界戦でも、村田は5回に右ストレートでエンダムをロープに吹っ飛ばしグロッギー状態にしたが、ジャッジ2人が「10-9」で村田、1人は「9-10」でエンダムをつけた。あくまで可能性だが、過去の世界戦で6度ダウンしながら判定まで持ち込んだ経験のあるエンダムに対して、このジャッジはタフな選手だという先入観がなかったか。審判のスキル次第で「リングジェネラルシップ」の採点は、このようなことが起こりうるのが現実だ。
起こりうることだから、仕方がないというわけではない。今回、メンドサ会長の対応は早かった。自身の採点を公開し「117-110」で村田が勝利していたと主張し、「正しい判定を下せないスポーツに怒りと不満を覚える」として、1週間もたたない内に再戦命令を出した。
ただ、世界的な組織の長が「正しい判定を下せない」と明言した限りはその原因を究明し、再発防止に努めなければならない。起こりうることを起こさないために、ジャッジへの教育を強化するか、採点基準をさらに明確にするなどの対策を検討すべきだろう。村田を負けとした2人のジャッジへのペナルティーだけで終わらせず、ボクシング競技そのものを守るためにも、ファンにわかりやすい改善を目指してほしい。(デイリースポーツ・船曳陽子)