【野球】中日・荒木の2000安打に思うこと
中日・荒木雅博の2000安打がカウントダウンに入っている。20年前、中日担当として彼を取材していた者としては、感慨深いものがある。正直、こんな大記録を達成するとはまったく想像もしなかったからだ。
入団当初の荒木はとにかく、足が速かった。遊撃手として入団したが、その足を買われて外野の守備固めや代走で出場していた。左中間、右中間へ上がった打球に信じられないスピードで追いつき、内野手のような横っ飛びで捕球する超人的なプレーが印象に残っている。
ただ、打力はレギュラーを伺うというレベルにはなかった。チームを救うビッグプレーをしても、投手との入れ替えで2軍落ち、なんて姿はしょっちゅう見ていた。それでも当時の星野仙一監督は「トラ(荒木のこと)は足だけで食って行けるよ。そのくらいの武器だよあいつの足は」と高評価。足を生かすためにとスイッチヒッターにも挑戦していた。
やはり転機は2004年の落合博満監督の就任だろう。当時、「めちゃくちゃキツイですよ。本当に死ぬかと思うくらい練習しますからね」と漏らしていた。キャンプでは井端と2人、室内練習場で特打が日課。それも2時間ぶっ通しなんてのもザラだったとか。
「落合監督が見てるんですよ。ずっと。何にも言わずに見てるんです。いいのか悪いのかも分からないけど、監督が見てるから気は抜けない。だんだん何も考えなくなって無心で打ってるんです」。
落合監督から試合前の打撃練習ではフルスイングを求められたという。
「スタンドインしないと怒られる。“飛ばせるんだから入れとけ”って」。
決してホームラン打者ではないが、軽いスイングは許さなかった。ほかにも試合中、一塁まで全力疾走しないと怒られた。
「1試合で4打席。1年間、一塁まで全力で走っておけば、シーズンを戦い抜く下半身ができるっていう考えなんです」。
荒木が落合監督に心酔していた様子は彼から聞く言葉で伝わってきた。
ただ、苦しい時期もあった。2010年に二塁から遊撃手コンバートされたときだ。不慣れなポジションにエラーを積み重ねた。それでも「監督から与えられた試練だと思ってるんです。これを乗り切ればあと5年はやれる。今年はしょうがないけど、来年はショートでゴールデングラブ賞取りますよ。絶対に」。
5年どころか、7年たった今でもバリバリだ。まだまだできる。
「僕みたいな選手が2000安打とか、球団最多盗塁とか記録するの面白いと思いませんか?だれもこんな風になると思わなかったでしょう。僕も思わなかったですもん」。
思わずうなずいてしまった。20年前の自分はまったく見抜けなかった。闘将がほれ込んだ足と名打者が磨き上げた打撃。大記録にふさわしい選手に成長していた。(デイリースポーツ・達野淳司)