【スポーツ】夏場所 稀勢の里周辺は化粧まわしも盛況だった 職人の技術を結集
大相撲夏場所(5月28日千秋楽)は横綱白鵬(32)=宮城野=の1年ぶり38度目の優勝で幕を閉じた。横綱稀勢の里(30)=田子ノ浦=フィーバーで前売り券は発売90分で完売。渦中の主役は左上腕部などの負傷が完治しないままの出場が響いて4敗を喫し、11日目から途中休場したが、弟弟子の高安(27)が大関昇進を決めるなど最後まで満員御礼の大盛り上がりだった。
土俵の熱戦以外でも注目を集めたのが人気漫画「北斗の拳」の三つぞろいの化粧まわし。同漫画は「北斗神拳」という一子相伝の暗殺拳の継承を兄弟が争う物語だ。横綱土俵入りの際、長兄ラオウを稀勢の里、次兄トキを露払いの松鳳山(二所ノ関)、末弟で主人公ケンシロウを太刀持ちの高安が着用した。
漫画ファンは拍手喝采。“遊び心”満載の逸品は、製作過程もまるで漫画をほうふつとさせるのが面白い。
託されたのは創業天保3年(1832年)の宮田刺繍舗6代目「日下商店」。前代未聞の逸品は、継承され続けた門外不出の技を持つ達人らの手で作り上げられた。
同店の日下ひょう介店主(77)は言う。「普通は1人の職人がすべての工程を担当するけど、この化粧まわしに限っては先発、中継ぎ、抑えと役割を分けた」。
デザイン、刺繍、仕上げなど工程は複雑だが、一流の職人はすべてをこなせる。しかし、あえて3人がそれぞれ最も得意な分野に技術のすべてを結集させたのだ。いわばラオウ、トキ、ケンシロウ北斗3兄弟のそれぞれの最強奥義が、一つになった“無敵”の化粧まわしなのだ。
製作期間は約3カ月。プライドの高い昔気質の職人は一筋縄ではいかなかった。「中継ぎから抑えが大変だった。『できない』というようなことがあり…」と店主は苦笑いする。それでも横綱のために全員が全力投球し、見事に仕上がった。
一流の個性と個性が火花を散らした秘話を稀勢の里も聞き、大いに感銘を受けていた。「そのいろんな(職人の)気持ちを考えて土俵に上がれば気持ちも入る」。長兄ラオウ、傷を癒やし、再び覇王伝説を刻む。(デイリースポーツ・荒木 司)