【野球】3部から全国へ 和歌山大の快進撃支えた「考える野球」
全日本大学野球選手権大会(神宮球場、東京ドーム)が5日に開幕する。出場校の中でも目を引くのが、今大会唯一の国立大である和歌山大(近畿学生野球リーグ)だ。1924年の創部以来、初出場を果たした。
和歌山県内の大学で唯一、硬式野球リーグに所属する同校。近年では、元読売テレビで現在フリーの川田裕美アナウンサーの出身校としても知られる。
チームを率いる大原弘監督(52)が08年に就任した当時は3部からのスタートだったが、12年春に2部優勝。昨秋は1部2位と確実に成果を上げてきた。
しかし就任時、活動はサークルのような状態だった。学内スペースの制限もあり、練習は長方形の多目的グラウンドで、平日2日間は他部と共用。単独で使用できる週末と合わせても週4日間だけだ。当初はピアスを着けた“自由な”部員もいたという。
県内の桐蔭高でコーチ経験があった大原監督だが「学生自治でやっているチームに、僕のような大人がいきなり入って、うまくやれるだろうか」と戸惑ったという。
当時の主将や主務らとも面談。そして導いた結論は、いきなり厳しい指導でチームを改革するのではなく、学生たちの自主性を重視した「考える野球」の実践だった。「高校野球とは違い18~22歳の大人。練習だけでなく、色んな面でアドバイスした。大学生は自由だが、自由をはき違えたらいかんぞ、と」と自主性を促した。
大学野球の試合でオーダーがアナウンスされる時、出身高校も紹介されることを挙げ、個人の責任感を問うこともあった。「君たちはみんな高校の名前を背負って野球をやっているんや。グラウンドに出るのにピアスを着けていたら、母校の名を下げてしまうことになるやろ?」と諭してみた。「やっぱり大人でしたから、理解も早かった」と振り返る。
大原監督は普段、県内の学習塾に勤務し、塾講師の採用面接や研修にも関わっている。その経験も選手指導に生かしたという。
試合では、打席で相手投手の球を見て感じたことをバッティングに生かしたり、相手バッテリーと駆け引きする感覚を養うため、ノーサイン野球も実践。常に「自分で考える」ことを重視した。結果、今季リーグ戦では15連覇中の奈良学園大を下し、初の全国大会にコマを進めることにつながった。
全日本大学野球選手権大会では、10年に北海道大が国立大ながら8強に進出している。今大会で和歌山大は、近大-岡山商科大の勝者と2回戦で対戦。大原監督は「自分たちが強くなるまでに、こういう環境でやってきたんだという思いを、強さに変えたい」という。全国へ羽ばたく「考える野球」に注目したい。(デイリースポーツ・中野裕美子)
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大原弘 1965年5月21日生まれ。桐蔭(和歌山)では野球部。京産大時代は野球部に所属せず、桐蔭の外部コーチとして指導。和歌山県内で学習塾を運営する「エスビジョングループ」勤務。