【スポーツ】「丹羽ギャル」の出現にみた卓球人気の成熟
日本での卓球人気はホンモノなのか-。6月5日まで行われた世界選手権(デュッセルドルフ)では、日本勢が男女合わせて5個のメダルを獲得。中でも、女子シングルス銅メダルの平野美宇(17)=エリートアカデミー=や、男子シングルス史上最年少8強の張本智和(13)=エリートアカデミー=ら若手の活躍が注目を集め、テレビのワイドショー番組でも大きく取り上げられた。
熱狂の余韻が冷めやらぬ中、14~18日まで荻村杯ジャパンオープンが東京体育館で行われた。大会を取材しながら報道陣で話題となったのが、スタンドで響く黄色い声。中国でアイドル的な人気を誇る世界王者の馬龍(中国)へのものかと思えば、どうやらそれだけではない。彼女たちの熱視線の先にいたのは、五輪2大会連続出場の丹羽孝希(22)=スヴェンソン=だ。「天才」と呼ばれる国内屈指のトッププレーヤーだが、ポーカーフェースで寡黙な職人気質の選手だけに、こんなに女性ファンがいたなんて…失礼ながら知らなかった。
極めつけは4日目の試合終了後。取材を終えた丹羽は会場を引き上げる際に、熱烈なファンの声援に足を止めると、持っていた花束を投げ入れて手を振った。すると、スタンドはお祭り騒ぎ。彼女たちの正体はいったい何なのか。気がつけば筆者はスタンドに掛けだしていた。
聞けば「丹羽ギャル」は20~50代の女性で構成された“ゆるやかな”集団で、主にソーシャルネットワーキングサービス(SNS)でつながった見知らぬ同士だという。丹羽の好きなところを聞くと、口をそろえて「いつも冷静で、プレーがとにかくカッコイイ」と目をハートにした。オリジナル応援グッズの作成にも取り組んでおり、「丹羽くんにこれだけのファンがいるんだと伝えてください」と熱く訴えていた。
今回初めて観戦に訪れたという福岡県在住の女性会社員(29)は「私はロンドン五輪で初めて丹羽くんを見てファンになった」と明かす。しかし、身近に同じ趣味の仲間はいなかった。そして時は来た。昨夏のリオデジャネイロ五輪で、丹羽はシングルスで8強入り。団体戦でも、日本男子初の銀メダルを獲得した。「ネット上でも、リオ五輪後にファンが急増したと思います。好きなところはそれぞれですけど、丹羽くんの魅力について話せる仲間ができてうれしい」。もともと卓球をやっていた人はごく少数だが、その多くが、リオ五輪を契機に卓球教室に通い出したという。
これまで福原愛(ANA)、石川佳純(全農)という2大スターや、絶対エースの水谷隼(木下グループ)らに支えられた日本卓球界だが、2020年東京五輪に向けて10代の平野、伊藤美誠(スターツ)、早田ひな(希望が丘高)、張本ら、次代のスター候補も着実に育っている。
一方で、スターがいなくなると廃れるようなジャンルはもろい。あるジャンルの人気は、スターだけでなくヒール(悪役)や、あるいは丹羽のような職人など、あらゆるキャラクターが混在して成熟するのではないか。
日本において卓球は、柔道や体操などと並んで五輪で確実にメダルが狙えるスポーツになり、注目度も上がった。そして、今や男女ともに世界ランク50傑に10人近くを輩出しているからこそ、ファンが応援する対象の選択肢も増える。突如、会場に現れた「丹羽ギャル」現象は、実力、人気ともに、日本卓球界の成熟のひとつの形だと個人的には感じた。再度。失礼だったらごめんなさい。(デイリースポーツ・藤川資野)